吉田修一

「春、バーニーズで」吉田修一

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 吉田修一の本は4冊目。う~ん、上手いなぁと思う。

 この本は、「贈り物にも最適」とどこかに紹介されていたが、心温まるいい話だと思う。あぁ、こういう夫婦っていいなぁと思える感じ。

 時々ちょっとしんどいなと思うときとか、ふっと遠くに行ってしまいたくなることとか、過去を思い出すこととかあるのだけれど、そういうすべてを相手がきちんと包み込んでくれる。

 男の視点で書かれている小説だけれど、奥さんの懐の深さが伝わってきて、こんなふうに柔らかく強い人になれたらいいなという気がした。

 この本には主人公が同じである4章と、ラストに短い「楽園」という作品が収められている。私は一番初めの「春、バーニーズで」という、結婚して普通の「パパ」になった主人公が、昔、一緒に暮らしていたおかまと再会するという話が好き。

 多分ノーマルである主人公とおかまの関係は普通の恋愛関係ではないのだけれど、人を愛することの純粋さがそこにはきちんと書き込まれていて、あたたかい気持ちになった。

 あとは、「夫婦の悪戯」の章もいい。仲の良い夫婦でも、相手に言えない過去を持っているということが、ユーモアのなかに描かれていて、少し苦いけれどやっぱりあたたかい。

 この本を読んでいて思ったのは、こういう普通にあたたかい話も、「文学」として充分成立するのだということ。最近、ハートウォーミングな作品を書きたいと思っている私には、良い勉強になった。

 痛みや悲しみや世の中の負の部分、人の暗い部分を描き出し、人に突きつけるだけが小説じゃないよな、と改めて思え、良かった。

 ただ、最後の「楽園」はただのおまけなのか、それともそれまでの四編と深い関わりのある作品なのか、それがとても気になった。もともとは違う雑誌に書かれていたものだから、多分関係ないのだとは思うのだけれど、でも、だったら同じ本に無理矢理入れるか?という疑問もわき起こる。

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