それ以外の本

新 雅史「商店街はなぜ滅びるのか」

以前、朝日新聞で商店街についての特集連載をしていたのだけれど、そのなかでこの筆者の新さんのコメントなどが紹介されており、気になって著作を手に取ってみた。

 

社会・政治・経済史など様々な角度からの分析が面白い

一言でまとめると、タイトルの通り、商店街はどのように興り、どのように廃れていったのか、また商店街はそもそも今の時代に必要なのか、必要なのだったら、どうやったら良い形で商店街というものを維持できるのか、ということを探る内容。

私自身は「都市デザイン」というものに以前から漠然とした興味があり、その延長線上でこの本も手に取ってみたのだけれど、読んでみたら、非常に「社労士」の仕事の範囲とリンクした部分が多く、とても興味深く読めた。

 

この本は、副題にもあるように、「社会・政治・経済史」など、本当に幅広い知識を持った作者が、様々な角度から事象をとらえて書いているのだけれど、作者の知識と視野が広いので、偏った知識しかない私には、非常に「目からうろこ」の部分が多かった。

 

自営業の安定

まず初めに驚いたのは、1章の初めから出てくる「自営業の安定」という言葉。

かつて存在していた日本社会の安定は、『日本型雇用慣行』(長期雇用、新卒一括採用、年功賃金など)に支えられた『雇用の安定』からのみ捉えられた。だが、こうした見方こそが大きな問題である。(略)戦後日本は、商店街の経営主をはじめとした、豊かな自営業によっても支えられていた。つまり、『自営業の安定』という、『雇用の安定』とは別の安定がしっかり存在していたのである。

言われてみれば、もっともだけれど、若者の失業率が高いとか、若者の経済力が低下しているという話を聞いたとき、私は「非正規雇用」というものにだけ問題があるような気がしていたし、なぜ失業率が上がり、非正規雇用者の割合が増えるかは、機械化が進んだことや、海外の安い労働力の問題としか考えていなかった。

でも、それだけではない、もっと根本的な原因があるのかもしれない。

 

商店街がつぶれモールになることによって起こる雇用の不均衡

作者曰く、商店街というのは歴史が古いものだと考えられがちだけれど、実は、デパートというものに対抗するために零細小売店が集まったもので、歴史はそう古くないという。

しかし、バブル期に地域にはスーパーが多く建つようになり、さらにバブルがはじけると買い手がつかなかった地域と地域の間にある大きな空き地にショッピングモールができ始め、商店街は衰退する。

商店街がつぶれ、スーパーやショッピングモールにとってかわられることによって何が起こるか。

雇用の面から考えると、「自営業者」が減り、アルバイト・パートという「非正規雇用者」が増える。

また、1985年の年金改革で、社労士にはおなじみ「第3号被保険者」というものが生まれる。つまり、「サラリーマンや公務員の妻(年収130万円以下)は、年金保険料を払わなくても、将来、自営業者と同じだけの年金はもらえますよ」という制度。

これによってますます社会は「サラリーマン+専業主婦」というものが理想的な家族の形という認識を強め、また、サラリーマンの妻が年収130万円以下の仕事を求めるため、スーパーやショッピングモールの時給はできるだけ低く抑えられていても、あまり不満は出てこない。そのうち、主婦ではない「フリーター」層の時給まで、そのレベルに抑えられることになる。そして「非正規雇用者」の経済状況はますます厳しくなる、というのが作者の見方だ。

まさにそうだろう。でも言われてみてはじめて、色々な物事がリンクして動いていることに気づく。

 

「自営業」という選択肢

政府も非正規雇用の経験しかない若者を雇ったら企業に助成金を出す、という試みと同時に、若者の創業支援もしてはいるけれど、自分で起業したいと思う若者は年々減っているというデータもある。

私自身も30歳くらいまでは、「自営業」という職業を正直身近に感じることはなかった気がする。でも、その選択肢の乏しさが、現代の問題なのではないかと筆者は言う。

 

筆者自身は、商店街の酒屋の息子として育った、社会学者(学習院大学非常勤講師)なのだけれど、「商店街」というものを全面的に肯定しているわけではない。でも、3.11のあと、商店街には多くのボランティアが入り、4か月という短期間で復旧したが、少し離れた場所にあるイオンなどの入るショッピングセンターにはボランティアの姿はなく、復旧も遅れていた、という例を出し、やはり地域に根付いた店というものは必要なのではないかと説く。

 

後半の「コンビニ」が商店街を内部から壊していくというくだりや、自分の「商店街の息子」時代を振り返る「あとがき」含め、非常に読みごたえのある本だった。

かなりアカデミックな本なので、結構頭を使うのは確かだけれど、その分読み終わった時、ちょっと賢くなった気分になれる(笑)ので、お薦めです!

特に社労士に読んでもらいたいな、と個人的には思います。

商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)
新 雅史

 

光文社 2012-05-17
売り上げランキング : 2787

Amazonで詳しく見る by G-Tools

-それ以外の本
-

© 2024 凪 Powered by AFFINGER5