溶けたりんごのオブジェの写真が印象的な
「雨宮庸介展 まだ溶けていないほうのワタリウム美術館」へ行ってきた。
この展示は昨今では珍しく、基本全面的に「撮影禁止」なので、写真はないのだけれど、
非常に語りたくなる面白い展示だった。
現代美術は「哲学」なんだな、と強く感じた企画展だった。
Contents
展示構成は 2階にりんご 3階にVR 4階にアーカイブ
ワタリウム美術館は外苑前近くにある「個人」が運営する美術館。
建物の前を通ったことは何度もあるのに、今まで一度も中に入ったことがなかった。
普通の美術館と違い、一つのフロア面積は結構狭い。
なので展示スペースは2階、3階、4階と3階分あるのだけれど、東京都現代美術館などで言う「3スペース」程度の分量。
つまり、作品数はあまり多くない。
ただ3階のVR作品が25分くらいあるので、全体を真面目に見ると1時間近く掛る。
(特にVR作品は毎時「0分」と「30分」の2回開始時刻が設定され、各回定員8名。私は平日の午前中に行ったので待たなかったけれど、土日などに行く場合は気をつけたい)
りんごと哲学
1階で受付をすませ、2階にはエレベーターで昇る。
で、エレベーターを降りると、今回の展覧会に寄せての文章が掲示されている。
ここまでは普通の美術展と同じ。
でもなぜか、その先にあるのはとても小さな扉で、「え? ここから入るの?」とちょっと戸惑う。
でも、そこから入り、振り返ると、「おぉっ」とうなる。
その扉も作品だったという。
2階のスペースは真ん中に大きなテーブルがあり、その上に何十ものりんごが置かれている。
溶けたりんごもあれば、溶けていないように見える美味しそうな立派なりんごも。
そして今までの作品展のために雨宮さんが書いてきたらしいメモやデッサンや、思考の断片などが並ぶ。
また、一番端には、「なぜ僕がりんごを作り続けるのか5分で解説する」みたいなタイトルの動画が流れている。
このメモや動画を見ると、雨宮さんというのは哲学者なんだなと思う。
「誰にとっても普遍的なりんごとは何か?」とか「なぜりんごの柄は曲がっている方がりんごらしく見えるのか」とか問いが面白い。
あぁ、この人は「美」を追いかけて「美術」をやっている人じゃないんだな、と思う。
でも思ってから、「美」を追いかけることも、もしかしたら哲学なのかもしれないと思う。
どうしたら見たままの美しさを届けられるのかと考え、点描を生み出した印象派の画家の思考だって、哲学とも言える。
VR 仮想が重層化する
雨宮さんは「胡蝶の夢」にもかなり関心があるらしい。
2階にも「ぬいぐるみのくまを擬態するぬいぐるみのくま」みたいな作品があったのだけれど、VR作品もそれと似た、現実と虚構のはざまにある何かを表現しようとする試みに感じられた。
書きすぎるとネタばれになってしまうので、あまり書かないけれど、VRと現代美術というのはとても相性がいいものなのかもしれないと思った。
まぁ、今はVR機材は高いし、体験できる人数をかなり絞ってしまうから、通常の美術館ではまだまだ難しいとは思うけどね。
でも、もっとVR機材がコンパクトで身近なものになったら、美術は今とは全然違うものになっていくのかもしれないとも感じた。
本当、VR使用の可能性の幅を感じさせる、刺激的な作品だった。
雨宮さんの意図とは違うかもしれないけれど……
VR作品のメインの登場人物は雨宮さん本人。そして、VRの主な舞台は、自分が正にいるワタリウム美術館の三階の部屋。
その部屋は十畳くらいのこじんまりとしたスペースで、そこで雨宮さんは前に立ったり、横に座ったりして、話をする。
とても雨宮さんが近く感じられる。
だから数年経ってこの展示を思い出したとき、私はきっと「雨宮さん本人に会ったよ。あれ? トークショーかなんかに合わせていったんだっけ?」と思うだろう。
それもまた、現実の書き換えであり、現実と虚構のはざまに落ちたような感覚。
ということで、是非、行ってみて♪
ということで、お薦めの美術展。
3月30日までなので、残り少ないけれど、是非行ってみて欲しい。
http://www.watarium.co.jp/jp/exhibition/202412/
★繰り返す部分もあるけれど注意点★
1.4階のアーカイブ作品以外は撮影できない
2.VR作品は8人定員で30分毎なので、土日などは時間に余裕を持って
3.未就学児は入場できない