仕事で関わっているPDCA研修内で薦められていた本を読んでみた。
"演劇人"である平田オリザさんと蓮行さんによる、「演劇ワークショップを活用した企業研修のすすめ」みたいな本。
なかなか新鮮な視点がたくさんあり、面白かった。
Contents
団員全員がプロの劇団
蓮行さんという人は初めて知ったけれど、京都で「劇団衛星」という劇団を主宰しているらしい。しかも「劇団衛星は全国的にも珍しい、団員全員がプロの劇団」ということ。
私も「元演劇人」だけれど、大学時代は「劇団員がそれだけで食べていかれる劇団は四季だけ」というのが常識だった。
でも、チケット代だけで経費と団員の"給料"を出そうとするからハードルが高いわけで、企業研修の講師や、学生に向けたワークショップの講師などの仕事を増やせば、"演劇"というのも立派に稼げる仕事に育つ可能性はあるのだな。......と、まずそこから、非常に感心してしまった。
このあいだ読んだ高橋歩さんの本では、「自伝を出したいために出版社を立ち上げる」という経歴に目から鱗だったけれど、どんなことでも、"無理"とさえ決めつけなければ、可能にする方法は無数にありそうだ。
と、まぁ、蓮行さんのプロフィールについて語るのはこの辺にしておいて......。
演劇を使った研修の中身を詳しく紹介している
この本は、「演劇」の歴史や、海外では「演劇」教育がどれだけ重視されているかなどを語る"理論"の章もあるけれど、多くは、「実際、演劇を使った研修って、どんなカリキュラムで、どんなことをするの?」ということについて説明するために割かれている。
蓮行さんのお薦めする研修のプランは、初めは発声練習から始まるのだけれど、なぜ発声練習が必要なのか、という意味づけや、発声練習などしたこともない人にどうやって腹式呼吸での声の出し方を教えるかという細かいテクニックまでしっかり書かれている。
たとえば発声練習の必要性については、「高くて大きな声は、危機を伝えるためには大切だけれど、内容は聞き取りづらい。しかも人をイライラさせやすい。しかし、トレーニングをせず、人間本来のプログラムで大きな声を出そうとすると、自然と声は高くなってしまう。だから発声練習をすることで、大きいけれど人を不快にさせない声を出せるようにることは大切だ」......というような感じに、きっちり説明されている。さすが京大卒!(笑)
発声練習のあとは、カラーボールを使ったワークや、一分間スピーチ、そして最後は実際にチームで10分ほどの創作劇を作るワークまで、びっしりカリキュラムは続く(はじめに紹介されるのは3日間のカリキュラム)。
でも、それぞれのワークについて「意義」「やり方」が詳細に書かれているし、3日も取れない場合はどうしたらいいか、などの案、「一分間スピーチ」やワークの応用版などについても親切に書かれている(たとえば「一分間スピーチ」の応用としては、自分のことではなく、人に簡単なインタビューをし、その人を紹介する形のスピーチをしてもらうとか、「もしあなたが社長だったら、1分間社員の前で何を言うか考えて、話して」というテーマを出すとか)。
研修の講師に慣れた人なら、これを読むだけでも一部、自分の研修に取り入れられそうに思える。
(まぁ、やるからにはちゃんと「演劇の実演」からしっかりできたらいいと思うけれど)
また、実際、研修に取り入れるかどうかはおいておいても、企業が必要としているコミュニケーション力とは何なのか、「演劇」を通して身に着けられる社会人に必須の能力というのは何なのか、など考えるのは、教育研修に携わる人にとって損はないだろう。
ということで、企業研修の仕事をしている方には、広くお薦めの本でした!
コミュニケーション力を引き出す (PHP新書) 平田 オリザ 蓮行
PHP研究所 2009-08-18 |