美術

「evala 現れる場 消滅する像」展

最近「音」に興味がある。

 

今、京都を舞台にした小説を書いているのだけれど、最初小説の構想を考えていたとき「京都→鴨川→川の音を収録している人」という連想がぱぱぱっと浮かんだ。

それで今は、写真を撮る女性と、音を収録し集める男性の話を書いている。

 

私は大学時代から写真を趣味にしているし、基本「視覚」の人間なのだと思う。

だから人よりも多く「音」に意識を向けていたりはしない。

でもだからこそ、意識をすっとずらすことで、日常の世界が微妙に変わる感じがして、面白い。

 

自分にとって小説を書くことは、他の世界を味わうことであり、そんなふうに世界を広げることなのかもしれない。

 

evalaさん

ということで、今回、初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で行われている「現れる場 消滅する像」に行ってきた。

 

今回の展示は、evalaさんというサウンド・アーティストの作品集。

前回は東京都現代美術館で行われている坂本龍一の展示を見に行ったと書いたけれど(その記事はこちら)、今回はもっと「聴覚」に振り切った展示で、非常に面白かった。

坂本龍一の展示と比べて、来場者はとても少ない印象だったけれど、私はこちらの展示の方が分かりやすく、非常に感じるところが多かった。

 

evalaさんは「See by Your Ears」という活動をされているそうなのだけれど、evalaさんの作品を体感していると、本当に、ないものが見えてくる。

暗い部屋で、様々な音(雨音やカエルの声、鳥の鳴き声、ジャングルのような場所の音、人の話し声、ライブハウスのような場所の音、足音、雷鳴……)が聞こえてくるという作品があるのだけれど、

鑑賞者用のソファーと音響設備、少しの照明しかないがらんとした空間に、

私たちは音だけで勝手に奥行きのある世界をイメージすることができる。

それってすごいな、と思った。

その作品もすごいけれど、私たちの想像力もすごいな、と。

 

暗闇のなかには音がある

以前「ダイアログインザダーク」という催しに行ったことがある。

完全な暗闇の中を、盲目の人がアテンダーになり、案内してくれるという体験。

その空間は今回の展示よりもさらに暗く、目が慣れてきても何も見えない完全な暗闇だったけれど、何も見えず、壁さえ見えない空間では、逆にものすごい広がりが感じられ、とても驚いたのを覚えている。

 

evalaさんはインタビューのなかで言っていた。

暗闇には何もないわけじゃない。

暗闇には音がある。

うわぁ、確かに「暗」にも「闇」にも「音」がある!!! 初めて気づき、感動した。

 

そして本当、暗闇って、何も見えないからこそ、なんでも生み出せるような、ものすごい可能性の場でもあるように思った。

 

音によって場を変えられるという可能性

でも、生み出せるのは暗闇にだけではないのかもしれない。

 

今回、evalaさん関連の短いドキュメンタリー番組がまとめられた映像があったのだけれど、そのなかで語られる考え方などが非常に面白くて、30分くらい見入ってしまった。

上で紹介した「暗闇には音がある」もその映像に出てきた言葉。

 

あと、もうひとつevalaさんの話で印象的だったのは、こんな言葉。

大きな建物を建てて“すごい”という時代じゃないと思うんですよ、もう。

それよりも、感覚とか捉え方が少し変わる。その方がずっと大きい。

メモとかしていないので、なんとなく捉えた言葉で、まったく正確じゃないと思うんだけど、

でも、こういう価値観、しびれる。

 

そしてevalaさんは丸亀市にある中津万象園でも展示を行ったらしいのだけれど、

それは歴史ある日本庭園を舞台に、参加者に様々な音を聴かせるというものだったらしい。

最初は実際に中津万象園で収録した池の音を流しているのだけれど、それが少しずつ自分に迫ってくるようになったり、実際には鳴っていない雷の音がしたりするうちに、VRのような仮想体験になっていく、と。

 

それって結局、暗闇に色々なものを自由に想像できるというのの延長線上にある行為で、

人は暗闇でなくても、実際にある空間に、新たなイメージを想像、創造できるということ。

 

同じ映像のなかで、evalaさんと共に活動しているサウンドクリエーターの人が言っていた。

今、VRなどのテクノロジーは、何もないところに何かを生み出すために使われているけれど、

今後は、すでにあるものの印象を変えることなどにも使い方が広がっていくと思う。

そうすることで、すでにあるものを壊して作り替える必要がなくなり、

今あるままで、違う形に体感してもらうことができるはずだ。

これまたメモをしていないので、ざっくりした記憶で作った文章だけれど、

この考え方も、素敵だと思った。

 

確かに同じ一つの空間でも、波長の違う音・音楽をかけることで、まったく別の空間に感じさせることもできるように思う。

それは音だけじゃなく、光や色、香りなど様々な要素でも同じことが言える。

 

「作り直すのではなく、味わわれ方を変える」……面白いな。

プロジェクションマッピングなども、そういうふうにも捉えられるよな。

 

そして、一つの物、空間がいくつもに変化するように、

「私」の感じるもの、感覚も、もっと柔軟に変化させられるものだということかもしれない。

 

と、色々なことを感じ、考えることができた、良い時間だった。

視覚にも言葉にも頼らない聴覚の世界は、マインドフルネスの世界でもあると思う。

非日常体験の場としてもお薦め。

 

「大きな耳をもったキツネ」「Our Muse」は予約制

展示自体は空いているし、多分事前予約などなくてもスムーズに入れると思うけれど、ICCが持っている無響室(音が吸収され、反響しない人工的な部屋)のためにevalaさんが創った2つの作品については、無響室で一人ずつ体験するものなので、時間を決めた予約制になっている。

 

私は「明日行く!」とサイトを見たら、すでにいっぱいになっていて、体験できず💦

もし事前に行くことが分かっていたら、予約してから行くと、さらに特別な体験ができるはず。

7日前から予約ができるようなので、要チェック。

★ICCのサイト ↓

https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2024/evala-emerging-site-disappearing-sight

 

「Our Muse」は、

「沖縄・竹富島の御嶽(うたき)という特殊な反響をもった非日常空間で収録したフィールド・レコーディング音源をもとに,まるで時空が変容するような高次元的音体験を構築しています」とのこと。

 

前に書いた映像の中で、evalaさんはこんなことも言っていた。

パワースポットというのは、音の響きが不思議な場所であることが多い。

言葉がまだ生まれる前の音の時代から、目に見えない何かを感じる場だったのでしょうね。

この「音の反響」というのも、とても気になるワードだと思った。

 

展示風景

撮影可の作品は2つしかないし、写真では何も伝わらない気もするけれど……。

この展示は本当、体感あるのみ。

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