東京現代美術館で行われている「ダムタイプ」展を観た。
「ダムタイプ」というのは、パフォーマンス集団。
私が演劇にはまっていた1990年代に一番注目を浴びていた集団だったから(「ダムタイプ」も劇場で「公演」をする形で主に活動していたから、演劇と大きな括りでは同じになっていたような)、久しぶりに名前を聞いて、「懐かしい~」となった。
ただ、懐かしくは感じたものの、生でその舞台を見た記憶はない(^^;)
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今見ても前衛的!
ダムタイプは、あくまでパフォーマンス集団であって、劇団ではないし、作っているのは、決して演劇ではない。
パフォーマーは舞台に現れるものの、台詞はほとんどない。パフォーマーに求められているのは、演技力というより、ダンサーに近い身体能力。ただ、ダムタイプが見せるのは、ダンスでも、舞踏でもない。
何かを象徴しているらしいけれど、ストレートに意味が伝わってくるわけではない、どこか抽象化されたイメージ映像と、無機質な音、そこに、パフォーマーの計算された動きがぴったりと合う。……そういう不思議な世界。
1990年に初演されたという《PH》という作品では、大きなスキャナーのようなものが舞台の中央にどんっと存在している。そして、それが前後に動き、パフォーマーはそれが来るたびに、避けなくてはいけない。
そのスキャナーのような機械は「ボーダー」を意味しており、そのボーダーを人は超えていかなくてはならないというようなことなのだそうだが、初演のときにそれを前提知識なしで理解できた人はどれくらいいるのだろう。
1990年代は、現代思想系の雑誌にも「ダムタイプ」に関する評論的な記事が多く出ていたように思う。「これはどういう意味か?」とより一層難解にして、語り合いたくなるような作品なんだろうなと、今回改めて思った。
そして、1990年代の作品が今そのまま舞台になったとしても、古さは感じず、むしろ「新しい! なんか、意味が分からなくてすごい」とやっぱり感じてしまうように思った。
展示内容は……
今回の展示には、基本パフォーマンスはない(1月13日に《S/N》の特別上映があり、そこでちょっとしたパフォーマンスや演奏があるくらいなよう。ちなみにその特別上映はすでに満席)。
大きな展示は4つで、それに過去の映像作品が見られる小さなテレビやスクリーンが3,4か所あるといった構成。
1階の企画展示室のスペースだし、そう広くはないし、点数は少ない。
主な4つの展示というのは、
- 1989年に制作されたインスタレーション《Playback》のリニューアルバージョン(下記写真のような展示。たまに光ったり声がする)
- 1994年にダムタイプ創設者・古橋さんが作った映像作品 《LOVERS》
(古橋さんはその翌年、エイズで亡くなりこれが遺作になっているそう) - ダムタイプの過去3作品の象徴的なシーンと新しい映像を組み合わせて作ったという映像作品(2014年に公開されたものの再現展示だそう。これは20分くらいあり、見ごたえがあった)
- 《PH》 の舞台装置である大きなスキャナーのような機械を再現した部屋(アイキャッチ画像の写真)
でも私はここが良かった
と、大きな展示は上の4つで、「3」はなかなか見ごたえがあったし、「4」も「おぉ」と思ったけれど、「ダムタイプ展、来てよかった!」と私が思ったのは、違う部分でかな。
私が個人的にはまったのは下記の2つ。
- 最後にあるテレビ
なぜか小さなテレビなんだけど(昔のもので画像が荒いから、大きなスクリーンには映せないのかな??)、 《S/N》 と《PH》の実際のパフォーマンス映像が10分ずつくらい見られたのは、とても良かった! - 500ページくらい(適当な数字(^^;))ありそうな「データブック」
「データブック」はさりげなく置かれているから素通りしている人も多いのだけど(一部屋目の奥にある)、結構すごかった。
最初はぼんやりとしたアイディアだったものが、次第に具体的な動きになり、最後は秒単位の設計図になっていく(確かに、映像と音とパフォーマーの動きを完璧に制御しようと思ったら、そういう設計図にならざるを得ないよな、と見てから思う)。その様が非常に面白かった。
本当、さりげなく置かれているのだけど、もしこの展示を見に行く人がいたら、ちょっと立ち止まってみて欲しい!
「集団」の形としても新しい
しかも、今回の展示に行くまで知らなかったのだけれど、「ダムタイプ」は、一人の「作・演出」みたいな人がいるわけではなく、様々な分野から集まったメンバーが自分の意見を持ち寄り、他のメンバーにそのアイディアのすばらしさをプレゼンしていくなかで、次第に形が仕上がっていく、という形の集団らしい。
劇団でも当時、役者に役割だけ与えて「エチュード(即興芝居)」をさせ、良かったシーンを組み合わせて作品にしていく、という形があった。私が好きだった「双数姉妹」もそうだった。
でも、そんな形式をとっても、やはり芝居は最終的には「演出家」つまりは「主宰」の物だった。
でもきっと、ダムタイプはもっと自由な組織なのだろう。でなければ、主宰者が亡くなった時点で、解散していたはずだ。
個人的感想
宮崎駿の昔の映画を見ても感じるけれど、時代を超えて常に「新しさ」を感じさせる作品って本当、すごいよなぁ、と思う。
今回の「ダムタイプ」展も、非常に刺激になった。
そして、今の自分は大学時代の自分のように、小難しい言葉で、こういう難解なものについて語る頭も、言葉も無くしているな、と気づいた。
それが悪いことなのかは分からないけれど、あの頃、小難しい哲学の本とか現代思想の雑誌などを読んだり、分かったふりしてそれについて語っていたのも楽しかったな~なんてことを、ちょっと思い出した(笑)
今回、この展示に2時間も浸ってしまったのは、自分の核にある性質が、やっぱりこういうものを好んでいるからなんだろうな。分かりやすいエンターテイメントの世界もいいけど、なんかもっと、ぐっと胸をえぐられるような、頭をいい意味で混乱させてくれるような、ちょっとした不安に陥れてくれるような、そんな世界も好きだ。
★展示詳細★
東京現代美術館(東京都江東区。東西線木場駅か半蔵門線清澄白河駅から徒歩10数分)
「ダムタイプ アクション+リフレクション」は、 2020年2月16日まで。
写真撮影は「携帯で」「静止画のみ」可能。
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/dumb-type-actions-reflections/