先日、直木賞を受賞した伊与原新さんの『藍を継ぐ海』の感想を書いたけれど、
それに引き続き、伊与原さんの同名小説が原作になっているNHKドラマ「宙わたる教室」をAmazon Prime Videoで見た。
このドラマは、ギャラクシー賞 2024年12月度月間賞を受賞しているのだけれど、
『藍を継ぐ海』が納得の直木賞だったように、このドラマも賞にふさわしい、とても良質な作品だった。
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「宙わたる教室」概要
「宙わたる教室」の概要を説明すると、
宇宙開発の研究において出世コースを歩んでいた研究者が、とあることをきっかけとし、その道を自らの意志で外れ、定時制高校の教師になる。
そこで様々な問題を抱える生徒と出会いながら、自分の「科学」「宇宙」というフィールドに彼らを引き込んでいき、少人数ではあるものの「科学部」を立ち上げ、「教室に火星を作る」というゴールを設定し、熱く実験と研究に向き合っていく。
という話。
定時制高校を舞台に、様々な問題を抱える生徒と先生がぶつかり合い、生徒を成長させていくという話は、とてもありふれている。
でも、この作品のすごいところは、「生徒が問題を克服し、一歩踏み出す」という部分はただの過程に過ぎず、その先にもっと果てしなく広がる世界が見えるところなのだと思う。
実話を元にした小説を原作としたドラマ
伊与原さんの『宙わたる教室』という小説は、
大阪の定時制高校の「科学部」が、科学研究の発表会「日本地球惑星科学連合大会・高校生の部」で優秀賞を受賞したという実話を元に書かれている。
その小説を元にドラマが作られているということは、
実話 → 小説 → ドラマ と色々な要素が詰め込まれているということで、
結局のところ、自分がどの部分に心打たれたのかはよく分からないのだけれど、
でもとにかく、最終的に仕上がった形の、このドラマはとても良かった。
よく「大自然を前にして、自分が抱えている問題がちっぽけに思えた」とかいう台詞があるけれど、
遠く離れた火星に想いを馳せるとき、自分のとても重たく、大きな悩みも、ほんの少し軽く、小さく思える。
そんな台詞はどこにもないけれど、そんな感じの視野の広さを感じる作品だった。
そして生徒の成長がただの過程と言ったのは、
それが科学の発展にも繋がり、自分たちとは違いもう完成された大人だと思えていた「先生」の成長にもつながっているのを感じたから。
地球、宇宙規模のことに想いを馳せながらも、身近な人にも温かい視線を送る。
『藍を継ぐ海』を読んだときも感じた伊与原さん作品の良さを、ここにも感じた。
役者が本当にいい
そして、役者が本当に良い。
前も書いたけれど、先生役の窪田正孝さんは、本当にハマるところに、ぴたっとハマる役者だなと思う。
本当は格好いいはずなのに、ドラマのなかではいい意味で格好良すぎず、“日常”の風景にすっと馴染む。
今回の役は、基本クールで感情を表わさない元研究者の「先生」なのだけれど、その先生が一度だけ本気で怒るところや、最後、心から嬉しそうに笑うシーンが、コントラストが非常についているから、心に染みる。
いやぁ、上手いなぁと思う。
科学部の生徒は4人で、私はイッセー尾形しか知らなかったのだけれど、他の生徒役の人も、非常に存在に説得力があり、すごいなと思った。
特に最初保健室登校しかできなかった気弱な女子生徒役の子がいるのだけれど、演じる役の気弱さにも、役者としての存在感にも両方に説得力があるって、どうやったらそうできるんだろう、と感心する。
部長役の男の子も良かったな。
いい作品の余韻
いい作品って、余韻が残る作品のように思う。
あぁまだ彼らの世界を見ていたかったな、みたいな思い。
この作品は原作を読む前にドラマを見てしまって、そこにはまってしまったから、
原作が気になるものの、今はドラマの世界を壊したくなくて、原作は読めないな。
余韻が引いたら、読もうという気になるかもしれない。
自分で小説を書いていても、登場人物とだんだん離れがたい気持ちになってくる。
登場人物とも、そこに広がる世界の空気感とも。
今それは、自分一人の感覚だけれど、それを他の人とも広く共有できるようになれば、より良いな、と最近思うようになった。
だから、多分私の作品はそろそろ世界に広がり始める。なんとなくそんな気がしている。
と、ちょっと脱線したけれど、本当に良い作品だったので、ドラマ、見て欲しい。


伊与原 新
『宙わたる教室』
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