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宮島 未奈『婚活マエストロ』

本屋大賞や様々な賞を受賞した『成瀬は天下を取りに行く』で一躍ベストセラー作家になった宮島さんの最新作を読んだ。

 

『成瀬は天下を取りに行く』には、『成瀬は信じた道を行く』という続編もあるのだけれど、続編も一巻目に負けず劣らず良かった。

この成瀬シリーズは、2024年に読んだ小説NO.1だったのは間違いない(もちろん、私のなかでね)。

 

良い小説を表現する言葉に「先が気になるけれど、読み終わってしまうのが悲しくて、少しずつゆっくり読んだ」というのがあるけれど、久しぶりにその気持ちを味わった本だった。

成瀬を読むとなんか元気がもらえるから、「元気がもらいたいとき用に取っておこう」みたいに、敢えてゆっくり読んだ。

 

『成瀬は天下を取りに行く』

成瀬シリーズを読んでいた頃は、このブログを止めていたので、成瀬愛をこのブログで語ってこなかったことが、今になると悔しい(笑)

 

今も小説部門ランキングの首位を守っているくらいの作品だから、今更私が説明するまでもない作品ではあるのだけれど、読んだことがなかったら、是非是非読んで欲しい。

 

成瀬という個性的な女子中学生が繰り広げる、日常サイズの物語を集めた連作短編なのだけれど、「日常サイズ」のくせに、心にとても響くし、残る。

しかも成瀬は個性的で、我が道をいくタイプなのだけれど、だからといって傍若無人なわけではなく、彼女なりの気遣いの心は持っているし、捉えどころがなさすぎる突飛さではない、なんか絶妙なバランスの存在なんだよね。

 

「天下」「信じた道」両方合わせて多分10個の短編があり、そのうち一作品だけは成瀬の視点で描かれているのだけれど、こういう個性的なキャラは、側にいる人の視点で表現したほうがより生きるな、ということもよく分かる作品だった。

色々な賞を獲っている「天下」より、2冊目の「信じた道」の方が、設定や視点人物などがそれぞれきちんと計算されていて、完成度が高かったように思う。

(でもやっぱり、1冊目から読まないと、意味は分からないかも)

 

ということで、二冊とも是非、読んで欲しい!

 

『婚活マエストロ』

宮島さんは『婚活マエストロ』のプロフィールによると、成瀬シリーズの前にコバルト文庫の賞を獲ってはいるらしいけれど、『成瀬は天下を取りに行く』が実質的デビュー作。

そして二作目も、成瀬関連の「続編」だったわけで、『婚活マエストロ』は、“話題のベストセラー作家”になって初の新作とも言える。

それって結構なプレッシャーだったのではと思うのだけれど、期待を裏切らない世界観と読後感で、「宮島さんの本、これからも読み続けていく!」と思える作品だった。

 

内容はタイトルから分かる通り「婚活」の話なのだけれど、真正面から婚活していく話ではなく、婚活に斜めから切り込んでいっているような構成。

(こういう斜めな感じも、さすがだなぁ、と思う)

 

主人公はサイト上によくある「〇〇に行ったら必ず買いたい土産物10選」とかそういった類の記事を書きながら、ほとんどリアルに人と会わずに暮らす40歳のWEBライター。

その主人公が、大家さんの紹介で、婚活関連の会社社長に引き合わされ、サイトの見直しを頼まれるというところから話は始まる。

「記事を書くために、まずは婚活パーティーを見学してみて」と、婚活パーティーに誘われ、そこからずるずると婚活の世界に引きずり込まれていく。

 

「婚活マエストロ」は、その会社の唯一の社員である女性に対してネット上で噂されているあだ名。

ただ、その女性は成瀬のような尖ったキャラではない。

普通の人とも言えないけれど、変わった人でもない。

でも、ありそうだけれど、ちょっとなさそうな微妙な世界が、軽やかな雰囲気で展開されていき、いつの間にかその世界に引き込まれている。

 

主人公たちは、「まぁまぁ普通」な分、脇役には成瀬を彷彿とさせる尖ったキャラも登場し、“やっぱり宮島さんはこういう人を書かせると上手いなぁ”とにやにやしているうちに、話がどんどん進んでいく。

 

婚活の話だし、すべてがすべて思ったようにはいかないのだけれど、それでも登場人物はみんな、それぞれに個性がありながらも魅力的で、基本、良い人で、気持ちよく読み進められる。

 

この本も、ちょっと心が弱っているときに読むと元気をもらえるような優しいエネルギーに満ちた作品だと思う。

 

 

色々ありながらも、最後は背中を押してもらえる感じは、瀬尾まいこさんの作品にもちょっと近いかな。

ただ瀬尾さんは、“本当は結構シリアスな状況だけれど、瀬尾さんが書くから軽やかに読めていいな”という作品が多い。

それに対して宮島さんの作品は、今のところそんなにシリアスな状況はない。

あくまで日常レベルの、ちょっとしたわだかまりが、最後にふっと溶けるような感じ。

(どっちがいいとか悪いとかじゃなくて)

 

なんか小説が読みたいけれど、何読もう、というときには、是非、宮島さんの本を読んでみて欲しい。

エイブラハムの言う「ほっとリラックスする、いい気分」に近づける本だとも思う!

 

宮島未奈『婚活マエストロ』

宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』

宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』

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