奥田英朗は一番「イン・ザ・プール」が好きで、伊良部先生のシリーズは少しずつトーンダウンしている感じがしてちょっと残念なのだけれど、この作品を読んで、奥田さんの作品全体がトーンダウンしている訳ではないのだ、と安心し、うれしくなった。
Contents
様々な環境の30代OL5人の物語
この本は30代前半の「微妙な年頃」の女性を主人公にする5つの短編から成っている。
「30代前半の女性」と一言でいっても、それぞれタイプは違っていて、独身もいれば既婚もいて、子供がいる人もいる。
ただ共通しているのは、みんな大手の会社に勤め、十何年かのキャリアを持ち、ばりばり働いているところだ。
子供がいる人、にしても、旦那とは別れてしまったシングルマザーだし、唯一既婚の第一話の主人公にしても、仕事を優先するため、子供は作っていない。......つまりどの生き方も、ここ10年くらいでメジャーになってきた女の生き方、なのかもしれない。
角田光代さんの「対岸の彼女」とは違って、子供を産んで専業主婦になっているような女性は出てこない。
男性が書いたとは思えないリアルさ
私はこの本の主人公たちとは大分違うところで生きているけれど、子育てに専念する専業主婦でもないので、彼女たち以上に微妙なところにいるかもしれない。
ただ本当、この作品は男の人が書いたとは思えないほど、女性のその「微妙」な立場を描き出していて、上手いなぁと感じた。普通の男だったら書けない。
女だったら書けるかもしれない。でも、女には書いて欲しくないような気もする、そんな本だった。
一つの話のなか、独身で会社勤めの主人公が、同窓会で子育て真っ最中の専業主婦に会っていう言葉が印象的だった。そしてそのあとの一言のまとめ。
「女は生きにくいと思った。どんな道を選んでも、ちがう道があったのではと思えてくる」
この本の登場人物と同じ世代の女性として時々感じている閉塞感は、この一言に尽きるのかもしれないなぁ、と奥田さんに拍手したくなった。よくぞ言い当てた!(笑)
最後はすがすがしい
全員、いろいろなことで悩みながらも、短編の最後はすがすがしく終わる。だから安心して読めた。
ちょっと強引にハッピーエンドにしたというのもなくはなかったけれど、一人一人の一生懸命さに声援を送りたくなり、彼女たちに光(解決にいたる道、考え方)が見えたことを一緒に祝いたくなった。
私もまだまだ微妙な「ガール」なのだけれど(笑)、29の後半や30の前半に感じていたような焦燥感はなくなったし、年相応に仕事のできる(仕事というのは、外の仕事だけじゃなく、家の中の仕事も含めてね)かっこいい「女性」を目指していこう、と思います。
同世代の人には、ちょっと耳の痛い話もあるかもしれないけれど、自分の人生を改めて考えさせられたりもして、いいかもしれない。
男の人にも、「女の世界ってこうなんだ」と知ってもらうために、読んでもらいたいな、なんて思います。
ガール 奥田 英朗
講談社 2006-01-21 |