小川洋子さんの同名の小説を映画化した「薬指の標本」を見た。
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フランスで映画化
この映画、邦画ではなく、フランス映画!
でも、日本とも海外ともどこともとれない場所が舞台の小川作品だから、まったく違和感はない。
......いや、むしろ、フランス映画であって良かった、と思う。
小川さんは、「博士の愛した数式」で本屋大賞を獲り、映画化もされたので、それが「代表作」のように思われているけれど、以前からの小川ファンとしては、それは違うだろう、という気がする。
「博士の愛した数式」は、小川さんにしては「珍しい」タイプの作品だ。
もちろん、「博士の愛した数式」も、すばらしいのだけれど、多分、根っからの小川ファンは、「薬指の標本」のほうを好んで読み、「やっぱ、こういうテイストよね」と、この映画に満足すると思う。
美を追求する芸術としての文学
一般の人には、純文学=私小説のように捕らえられがちで、自分の悩みを滔々と語るのが小説だみたいに思われている気もするけれど、私が思う、小説らしい小説は、やっぱりこういう、小川作品だな、と、映画を見て、改めて思った。
どんな作品だ、と聞かれても困るけれど、描写ありきで、ストーリーはただそのシーンを生かすための小道具でしかない、みたいな「芸術作品」かな。
この映画も、非常に「純文学」っぽい。
分からない人にはわからないだろうけれど、分かる人は、はまる。
だからこそ、アマゾンでも星5つなんだろう。
多分、星1つしかつけないであろうような人は、そもそもこのDVDを手に取ろうともしないはず。
やっぱり、文学は、美の追求だ。文学も「芸術」だ。
などと、忘れていた「原点」に久しぶりに回帰した感じ。
ストーリーを軽視するわけではないけれど、ストーリーは自分にとって、メインではない。
ストーリーによって描かれる世界や、人の心理こそが「主役」。
先を読ませる牽引力は大切だけれど、ストーリーを前面には押し出さない。
日常をつかのま忘れさせる美を表現できてこそ、文学。
エンタメを目指しつつも、なにかすごい違和感をときどき感じ、行き詰っていたけれど、なんか、この作品を見て、ふっと、「無理はやめよう」と思った。
私はやっぱり、こういう世界が好きだ。
薬指の標本 SPECIAL EDITION [DVD] ディアーヌ・ベルトラン 小川洋子
ハピネット・ピクチャーズ 2007-03-23 |
↓ 小川さんの原作。
薬指の標本 (新潮文庫) 小川 洋子
新潮社 1997-12 |