「嫌われ松子の一生」に続き、山田さんの作品をまた読んでみた。
やっぱり上手い!
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文句なくうまい
好きな作家というのは、もちろんたくさんいるけれど、大体は「〇〇の部分にちょっと不満はあるけれど、でも、やっぱ、いいいんだよね~」という「好き」。
でも、山田さんの作品は、文句のつけようがなく「上手い」。
しかも、その上手さは、数をこなしたあとに身につけた職人的(だからこそ、どこか人工的。たとえば重松清さんとか......)な上手さではなく、個性とか主張とか深さとかそういうものとも、しっかり共存した上手さ。
去年は、伊坂幸太郎さんに出会い、一目ぼれするかのように、その作品にはまり、1年でほとんどすべての伊坂作品を読んだけれど、今年の一番の出会いはこのまま行くと、山田宗樹さんの作品かもしれない。
様々な考え方・価値観をもった人物の視点
「天使の代理人」は、一言で説明すると「中絶」がテーマの話。
で、基本的には、「中絶反対」の立場で書かれている。
ただ、独りよがりの、声高な主張なわけではなく、「助産婦として中絶の補助をし続けた罪悪感から、中絶反対の活動を始めた五十歳くらいの独身女性」「医療ミスでせっかく授かった子供を中絶させられてしまった二十代の女性」「迷いなく、あっさりと中絶をした二十歳の学生」「銀行でしっかりとしたキャリアを築いている三十代後半の女性」など、色々な立場、様々な考え方、価値観をもった女性の視点を使い分け、ある意味では、淡々と、論理的にストーリーを展開する。
その、本当はあるのかもしれない主張の熱さと、感情的にそんな「主張」に流されない計算された物語の構成が、本当に上手い。
すべての人がきちんと生きていて、リアリティがある。
テーマは重く、笑いはないけれど、だからといって希望がないわけではなく、みんな悩みながらも、どこかで間違った選択をしながらも、基本的に心が綺麗だから、救いがあって、読後感はいい。
乃南アサさんにも似ている
この人間の書き方の上手さは、乃南アサさんにも似ている。
乃南さんも、ミステリー作家ではあるけれど、いわゆるミステリーではなく、なんのトリックも、どんでん返しもなくても、「感情移入」だけで読ませてしまうところがあるけれど、そんな感じ。
(私が乃南さんの代表作と思っている『風紋』は、犯罪被害者の家族をひたすら追った話だけれど、主人公が実在の人物に思えてならなかった。読み終わってしばらく経っても、あの子、大丈夫かな、と心配しちゃうくらい)
そして、男性が、女性だけ五人ほどの視点で物語を書いて、まったく違和感を生じさせないってすごい。
しかもテーマが、中絶、妊娠、出産......。
後半、話に入り込んでいたので、あとがきを読んで書いたのが男の人だと思い出し、「うわぁ、そうだった。それって、すごい!」と改めて興奮してみました。
しばらく追い続けたい作家さんです。
天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫) 山田 宗樹
幻冬舎 2006-04 |