ミステリーより文学として読みたい
犯人は誰か、とか、どういうトリックを使ったのか、というところに重きを置いて読むと「あれ?」という感じがしてしまうけれど、ミステリーだと思わず、エンターテイメントの要素もある純文学として読むと非常に上手く、深い作品だと思う。
タイトルの通り「貌」って何かと突き詰めていった作品だと考えると、様々な視点からの考察があり非常に興味深い。
やはり雫井さんは人の描写も上手いし、人の暗い面も含めて非常によく描き出していると思う。
フィクションを支えるのは結局のところ、人物の"リアリティ"だということを感じる。雫井さんはそういった意味で、本当によく人を観察している。
あぁ、こういう人、いそうだよね、とすべての人物に対して思える。
ただ、最後はこれでいいのだろうか、という気もして、手放しで推せない気もするけれど、重みのある一冊を読んだという充実感はあった。
改めて、ミステリーってなんだろう、と考えるうえでも、勉強になる作品だった。
虚貌〈上〉 (幻冬舎文庫)
幻冬舎 2003-04 |