ブロードウェイミュージカルの映像が映画館で見られるブロードウェイシネマというのがあり、今(3月や4月)「キンキーブーツ」が全国数十か所の映画館で上映されている(上映される)。
https://broadwaycinema.jp/_ct/17437791
で、私は銀座「東劇」で見てきたのだけれど、いやぁ~、良かった。
映画なんだけど、ブロードウェイで実際に上演されたときの拍手の音が所々で入り、最後は観客の姿も映り、まるで自分も劇場にいるような気持ちになれた。
演劇の良さはやっぱり、生でエネルギーを感じられることなので、映画になっている時点で、きっと何割かはそれが落ちていると思うのだけれど、それでも伝わる熱量。生はどれほどなのだろう。
でも、生だと字幕もなくて理解できないはずだし、字幕付きの映画で見られて良かった。
普通の映画よりは高く3000円だったけれど、生の芝居を観るのと変わらない興奮を味わえるという意味では、安い。
Contents
緩急/動と静/シリアスと笑い
前回の「窮鼠はチーズの夢を見る」の感想記事でも書いたけれど、いい作品ってバランスがいいんだな。
「キンキーブーツ」のあらすじは……
代々続く老舗紳士靴工場の跡取り息子が主人公。
田舎の工場生活を捨て、一度はロンドンに出るものの、父親が死に、「社長」になる。
彼は優柔不断なところがあり、後を継ぐことも、都会で暮らしたいと言う婚約者との生活を選ぶことも自分では選べない。
継ぎかけた工場には売れない靴が山ほどあり、主人公は一度、従業員を解雇し、工場を閉めることを決意する。
しかし、代々そこに勤めてきた従業員は納得しない。
「ニッチな部分に目をつけて、再生を果たした靴工場もある」と言い含められる。
そんな物語と並行し、主人公は裏路地で女装した男性が襲われそうになっているの目撃し、助けようとしたのがきっかけで、女装した男性ばかりが登場するショーの世界に引っ張り込まれる。
そのショーで主役を張る「ローラ」と名乗る男性(女装している)は、ヒールの高いブーツについて熱く語る。
結果、主人公は、「女装したい男性のための、男性の体重にも耐えられる頑丈なピンヒールブーツ」の開発を始めることにする。
というのが、簡単なストーリー。
でもこのストーリー凄い!
最初のところで、ローラたちの華やかなショーの合間合間に、主人公が従業員に解雇を申し渡すシリアスなシーンが挟み込まれる部分があるのだけれど、この対比がすごい!!と思った。
老舗靴屋の逆転劇といえば、「陸王」を思い出すのだけど(池井戸さんの小説と、それを原作にしたドラマね)、同じ「老舗靴屋の逆転劇」というテーマでも、自分の得意分野を生かして、色々な方向に持っていけるんだなぁ、なんてことも考えたりして。(池井戸さんは銀行出身だから、金策部分に焦点が当たっている)
どっちがいいとか、悪いとか全然なく、自分の得意を意識して、そっちに持って行くって大事。
でも、この「キンキーブーツ」はやっぱり、この老舗靴屋という地味な世界と、ゲイのショーという華やかな世界の対比が、ミュージカルという手法によってさらに強調され、むちゃくちゃ成功していて、「はぁ」とため息。
役者の身体能力もすごいよなぁ。
十五センチくらいありそうなヒールのブーツを、自分の体の一部のように自然に履いて、男性がダイナミックに踊るシーンはもう、圧巻。
演技もすごいし、ダンスもすごいし、歌もすごい。
でも「ローラ」は一度だけスーツを着た「まともな男性」の姿を見せるのだけれど、それが本当に普通のどこにでもいそうなおじさんで、それがまた衝撃だった。
(そういう姿のシーンを入れちゃうところも、本当、巧い!!)
もう、すごい、すごい、すごい!!
人は感動すると、それを最低3人に言いたくなるという法則があるらしいけれど、これはもう薦めざるを得ないね。
是非、見て♪
https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=KinkyBoots
3年前に生まれた望み
この「キンキーブーツ」を見て思い出したのは、
「そういえば3年前にグレーテストショーマンを観たとき、“こんな熱い作品を創りたい!”と強く思ったな」ということ。
でも私の淡々とした文体の小説では、演劇をテーマに書き始めても、なんだかシリアスな冷めた話になってしまい、挫折した(^^;)
私の脚本も、多分そんなに熱さはない。
でも、その脚本を元に創ってもらった歌は、とても広がりがある、明るさとパワーのある曲だった。
まだ「パキラ」は役者も決まっていないし、具体的に動いてはいないのだけど、熱い役者が揃い、熱いスタッフが揃ったら、「パキラ」も人の心に火をつけるような、心にびりびり響くような作品になるのかもしれない。
そう思ったら、「無理」と感じる望みも、思いがけないところで、じわじわ叶っていっているのかもしれない。それがなんか嬉しいなと感じた日でもあった。