窪美澄

窪美澄「夜に星を放つ」

2022年前期直木賞受賞作。

5つの短編小説。

 

醸し出す空気感が好きだ

窪さんの本は連作短編集が多いような気がするけれど、これは完全に独立した5つの話。

だからちょっとバラバラ感があって、連作短編の方がもっと世界に浸れたかなとも思うけれど、窪さんらしい雰囲気に満ちていて良い本だった。

 

最近、町田そのこさんや凪良ゆうさんの本が好きで、それってそれぞれの作家が出す雰囲気みたいなものが好きなんだなと思う。

書かれている内容より、その世界を流れる空気感が好き、みたいな。

窪さんの小説も、私はそういう空気感とか雰囲気とかで味わっているように思う。

 

窪さんの本は、ちょっと痛みがあって、人物描写がリアルで上手い。それは角田光代さんの描く世界ともやや通じているのだけれど、でも窪さんの作品にはもっと包み込む柔らかさがある。

シャープな部分と柔らかい部分が共存している感じかなぁ。

ものすごく感覚的なことなんだけど。

 

町田そのこさんや凪良ゆうさんも人物描写が上手いし、リアリティも感じさせるのだけれど、でももっとふわっとしていて、全体的にファンタジー感があるように思う。

だから心が本当に疲れているときには、私は町田そのこさんや凪良ゆうさんの作品を読みたくなるかな。

 

……説明がとっちらかっているけれど、とにかく窪さんの作品は「上手さ」と「心地よい雰囲気」と両方をバランスよく兼ね備えているところがいいな、と思う。

(「ふがいない僕は空を見た」や「晴天の迷いクジラ」はもっとシャープで、だからこそ痛かった気もするけど、でも、この二作はものすごい傑作だと思う)

 

5作品の概要

5作は本当それぞれ全然違う世界と主人公で、テーマもバラバラ。

第一話は……婚活アプリで知り合った男性と、亡くなった双子の妹の恋人との関係を描く三十代前半の女性の物語

第二話は……おばあちゃんの家の近くの海に通う男の子と幼なじみの女の子の物語

第三話は……母親が亡くなり、学校でもいじめに遭っている高校生の女の子の物語

第四話は……離婚し、子どもと元妻は海外に引っ越し、一人になった男性と、隣に越してきたシングルマザーの物語

第五話は……両親が離婚し、父親と新しい母親、生まれたての弟と暮らす10歳の男の子の物語

 

私は、後半にいくほど、物語に入りこめたような気がする。第五話はとても切なくて、泣いてしまった。

自分の子供が8歳男子で、主人公の男の子と近いように感じたからかもしれない。

 

蓋をしてなかったことにした記憶と感情

それから、第三話を読んで、思い出したことがあった。

第三話は、亡くなった母親の幽霊が見える女の子の話なのだけれど、その子は学校で、「こっくりさん」を使って「呪われるよ」といじめられる。

私も小学生の頃、いじめに遭っていたのだけれど、「こっくりさん」に似た「キューピッドさん」というのが当時は流行っていて、同級生に「キューピッドさんによると、けこ(当時のあだ名)は今年死ぬんだって。だから、今度の誕生日が最後だから、盛大にお祝いしよう」と誕生会を開かれた。

忘れていたけど、思い出すと、すごい恐ろしいいじめだ💦

私は中途半端にスピリチュアル的なことが、なんか嫌いなんだけど(占いとか信じない方)、あ~、そこからだったか、とちょっと腑に落ちた部分があって、それは良かったな。

今更苦しくなったり、悲しくなったりとかないけど、すごい記憶、眠ってたな、と。

 

そうそう、パキラの稽古が始まって、「怒りのワーク」とかしていた頃、色々な過去の記憶がうわぁーっと蘇ってきて苦しかったことがあったのだけど、そのときに思い出したのも、小学校の頃のいじめのことだった。

Happyさんが「感情を押し殺していると、人から失礼なことを入れても、それに気づけない」みたいなことを言っていたのだけれど、私は当時自分がされたことに対して、怒り切っていなかったな、と気づいた。

35年くらい前の話ではあるけれど、本当に強い感情ほど、人は自分の奥に蓋をして隠すから、何年経ってからでも、そういう感情が出てきたら、しっかり目を向けて、昇華してあげるって大事だな、と思う。

押し殺した感情は、見えなくなっていても、なくなってはいないから、変なところで今の人生に影響を及ぼすことがある。

人が「え? なんでこんなことで怒るの?」とか「なんでそんなに怖がるの?」とかそういうことがあったら、きっと過去に仕舞いこんだ感情が複雑に作用している。

 

本屋大賞と直木賞の違い

と、脱線したけれど、やっぱり窪さんは上手いし、窪さんの作品は好きだな~と思えた本でした。

「ふがいない僕は空を見た」と「晴天の迷いクジラ」の方が直木賞という大きな賞にはふさわしいように思うけれど、直木賞はあくまで「作家」に与えられるものなのだろうな。

つまり、「本屋大賞」受賞作を読めば、「当たりの本」が分かり、「直木賞」受賞者を見れば、「当たりの作家」が分かるという感じかな。

ということで、読む本に迷ったときは、本屋大賞受賞作か、直木賞受賞者の代表作っぽい作品を選べば、成功率高い!はず。

窪美澄
『夜に星を放つ』

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