本屋大賞2位だったという本。
青山美智子さんという作家を初めて知ったけれど、いい本だった。楽しめた。
構成や最後のちょっとしたどんでん返しみたいなものもいいけれど、ただ描き出す世界が好きだな、と。
Contents
連作短編集
4つの短編とエピローグからなる連作短編集。
1話目は、ある女性をモデルにしたエスキース(下絵)を画家の卵が描く話。
2話目は、その画家がちょっと有名になってきた頃、「エスキース」に合う額を創るように頼まれた画材屋の話。
3話目は、漫画家と元弟子の漫画家の久しぶりの対面の話。その対面(雑誌の対談のための対面)の場所となったカフェに「エスキース」が飾られている。
4話目は、50代になった女性が“私の人生このままでいいのか”と迷う話。長く同棲していた恋人の愛読書が第3話の師匠の漫画で、「エスキース」も写る第3話の対談の切り抜きも大切にしている、という設定。
と、一見、「大分、エスキースから離れてきたなぁ」と感じる構成で、これは『桐島、部活やめるってよ』みたいな、「桐島」が主人公なのかと思いきや、桐島自身は登場しないみたいな構成の本なのか、と思う。
が、しかし!
っていう本。
4話目の終わりから「え?」となり、「エピローグ」が全部の答え合わせになっていて、「おぉ、そこにも。なるほど、ここにも!」みたいになる。
なかなか構成が凝っていて、楽しい。
それがなくても、私は好き
でも、私は、この構成の巧みさがなくても、好みの本だった。
描かれる世界が静かで好き。
そして、第3章の人間ドラマみたいなものには、ぐっと来た。
3話目は先にも書いたように、漫画家の師と弟子の話なのだけれど、弟子の方がすごい才能に恵まれていて、すっとデビューを決めるや連載も決まり、アニメ化も決まり、賞も獲り……と大活躍し始める。しかもまだ若く、見た目もいい。
それに師の方が嫉妬を感じ、色々穿った考え方をする。
そこで向こうからオファーのあった対談の話。師の方は、自分の宣伝になるならと受けるが、内心どこか穏やかではない。
でも、対談が終わり、二人きりになったあと、無口な弟子が語り始める言葉が、とてもいい。
私も才能あるタイプではなく、努力でコツコツの方だから、師の方にとても感情移入してしまった。
そして、弟子の方が語る「作品」と「作家」の関係に、青山さんもそんな想いで作品と向き合っているのだな、と感じられた。
物創りしている人には、是非読んでもらいたい作品。
あと、この本、「青と赤のエスキース」なのかと思いきや、「青と赤とエスキース」が正しいタイトル。
そして、すべての章で「青」と「赤」がきっちり対比で使われているのだと気づく(章タイトルだけ見ても気づけるんだけど、気づかなかった(笑))
そういう色の使い方好きだから、ここも、あ、素敵と思った。
やや趣向に走りすぎた部分もあったけれど。
そして、エピローグは、「エスキース」を描いた画家視点の物語、というより、独白に近いものなのだけれど、ここに出てくる「作品」の捉え方も良かったな。
無名時代には誰にも見向きもされなかったわたしの初期の絵も、後に描いた他の作品が評価されジャック・ジャクソンの名前が知られるごとに、急に値段が上がっていくのだ。
絵は何も変わっていないのに。
変わるのは、世の中の価値観だ。描いた本人の想いとは無関係に。
(略)
でも今のわたしは思うことがある。
不思議なことに絵画は、たくさんの人に見られて、たくさんの人に愛されていくうちに、勝手にどんどん成長していく気がするのだ。描き手から離れたあと、おのずと力がついていくような。
創り手の数だけ、「作品」との向き合い方はあるのだろうけれど、私も本当、最近「作品」と自分の関係についてはよく考える。
ま、だから響いたのかな。
連作短編だから、小説を読みなれていない人にも読みやすいと思うし、読むと心洗われる感じがする優しい本なので、お薦め!
青山美智子「赤と青とエスキース」