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三浦 しをん「舟を編む」

昨年の本屋大賞受賞作。

一言で説明すると、辞書を作る人たちの話。

多分かなり取材をしているのだろう、細部が非常にリアルで、「なるほどそういう工程を踏んで辞書というのはできるんだ」という驚きに満ちた内容になっているけれど、「本屋大賞受賞作」なわけで、あくまで「フィクション」。

タイトルの「舟を編む」の「編む」は「編集する」の意味だと思うけれど、「舟」というのが「辞書」を意味している。
「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
かっこいい!

 

ストーリーと視点の移り変わり

話はある出版社で辞書編集部の責任者だった荒木さんが定年退職を迎え、後継者を探すところから始まる。

第1章がその荒木さん視点、第2章は後継者として目をつけられた馬締(まじめ)という男性の視点、第3章はもともと辞書編集部に所属しているけれど、辞書というものにそこまで愛情を抱けずにいる西岡という男性の視点、第4章が新たに辞書編集部に異動になった岸部という若い女性の視点、第5章が再び馬締視点で語られている。

荒木さんと馬締さんは、辞書に特異な愛を抱いている、まわりから見ると明らかな"変人"。

なので正直、第1章と2章のあたりは、「へぇ」といろいろ感心したり、興味深く感じたりはしたけれど、感情移入はできなかったかな。

 

でも、第3章と第4章の、普通の感覚を持った人が視点人物になっている章で、徐々に辞書を作るということがどういう意味を持ったことなのか、言葉にはどんな力があるのか、ということが伝わってくる(この「言葉」に対する想いはきっと作者である三浦さんの想いでもあるのだろう、と考えると、また、胸を打たれる気がする)。

 

それでラストは馬締さんの章なのだけれど、その頃には、"変人"の馬締さんに感情移入して、「頑張れ!」と思ってしまうから不思議だ。

辞書を買うなら「広辞苑」より、馬締さんたちの作っている「大渡海」が欲しい、なんて最後には思っている(笑)

 

エンタメにする理由

正直、馬締さんのキャラクター設定や、恋愛部分はちょっと型にはまった作りものっぽさも感じなくはなかったけれど、それが三浦さんの「伝える」ということに対するこだわりなのだろうな。

三浦さんはいくつかの文学賞の選考委員などもしているのだけれど、選考委員の選評を読むとそれぞれの作家がどんなことを重視して自らの作品を作っているのかが分かって、興味深い。

三浦さんは太宰治賞の選考でこんなことを言っていた。

もし、「世紀の傑作が書けた」と思っても、自分以外のだれかに読んでもらわなければ、その作品は本当の意味では傑作にならないだろう。「傑作だ」と自分で確信し、それだけで満足するのなら、原稿は机の引き出しにしまっておき、百年後に発見され評価されるのを待てばいい。

賞に応募するということは、百年後ではなくいま、だれかに読んでほしいという気持ちが少なからずあるということだろう。つまり、いま、だれかに伝えたいと願って書かれた作品であるはずで、そうであるならば、伝えるための工夫を最大限こらすべきだ。工夫をこらす余地は、文章や構成やユーモアや登場人物の造形など、さまざまにある。

この文章を読んで三浦さんは自分の伝えたいことを伝えるために、作品を「エンターテイメント」にするということを選んだということなんじゃないかと思った。

楽しく読める良質なエンターテイメント作品だった。

家に辞書がある人は、この本を読んだら、これから頻繁に辞書を引きたくなること間違いなし、です!

舟を編む舟を編む
三浦 しをん

 

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