エッセイ

笹原留似子「おもかげ復元師」

知り合いがfacebookで紹介していた本が気になり、読んでみた。

 

どこを読んでも泣ける

以前「おくりびと」という映画が話題になり、あれも非常に良かったけれど、この本は「おくりびと」をしている本人の手記(エッセイ集)で、ひとつひとつの話が、非常に心に迫ってくる、すごい本。

ティッシュが手放せないくらい、どこを読んでも泣けてくる......。

 

「おくりびと」には死者を拭き清めて、着物を着せて、軽く化粧をするくらいの場面しか出てこなかった気がするけれど、この筆者・笹原さんがしているのは、もっと職人技みたいだった。

亡くなって硬直した人の顔をマッサージしてほぐし、表情筋のつきかたから、生前の笑顔を想像し、その顔に近づけていく。顔の一部が事故などで陥没していたら綿を詰めて直したり、たとえ蛆虫が湧いていても、それを退治して、まるで眠っているかのような姿まで戻していく、と。

この技術だけでもすごいけれど、もっとすごいのは笹原さんの愛情の深さ。

人というものに対する愛が半端じゃないから、できる仕事なんだろうな、と思う。

でもその一方で、こういう"死"が日常になってしまうような仕事をしていたら、逆に人間愛がはぐくまれていくのかもしれない、とも思う。

笹原さんも「経験豊富な納棺師や、この仕事に関わっている人たちは、みんな優しいと私は思います」と書いている。でも、優しいから続けられる、のかもしれない。

 

作り物ではないからこそ直に伝わる

「おくりびと」は、やはり作られた「作品」だったから(納棺夫日記という本物のおくりびとの手記をヒントに作られたらしいが、映画を作ったのは第三者的存在の人だったという意味で)、「死」とか「納棺」というものから、適度な距離を保ちつつ、どこかしら淡々と美しく進んでいくところがあったけれど、この本は、思い切り「当事者」の視点で描かれている。

遺族の感情が直に伝わってきてしまうような、そういう距離の近さがある。

 

なぜ亡くなった人の顔をできるだけ生前の顔に戻そうとするのか......。それはただ葬儀のため、などという理由ではないらしい。

多くの人は、身内の遺体が苦悶の表情を浮かべたり、ひどい顔色をしていたり、匂いを発していたりすると、それを自分の身内だとは認められないけれど、それを元に戻してあげることで、死を受け入れることができる、と笹原さんは書いている。

そして事実を受け止めて、泣きたければ泣いたり、悲しみをきちんと表現することが大切なのだ、と。

 

遺体と遺族

この本は、4ページくらいの原稿が60ほど集まって構成されている「掌編集」みたいなものなのだけれど、その1つ1つの話に登場するのが、遺体と共に、"遺族"。

その遺族が様々な反応を示し、色々な行動をするのだけれど、それがまた、故人への愛を感じさせて、ぐっとくる。悲しいけれど、同時に心が温かくなる話もまた、詰まっている。

遺体の復元をする笹原さんは本当にすごい愛の人だけれど、そうではない、ただ普通に生きている"遺族"たちも実は愛にあふれた人たちなんじゃないかと、この本を読んでいると感じられるのも、また、良かった。

 

笹原さんは、もともと東北を拠点に活動されていた人のようで、東北の震災のときにいち早く被災地に駆けつけ、お金をもらわず無償で遺体の修復をしていたらしい。

この本の後半半分近くも、3.11後の復元の話になっている。

震災から2年。東北を忘れないためにも、多くの人に読んでもらいたい本。

おもかげ復元師 (一般書)おもかげ復元師 (一般書)
笹原留似子

 

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