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馳 星周「少年と犬」

2020上半期の直木賞に選ばれた本。

6つの連作短編集。

 

硬派なしっかりとした読み応えの本

タイトルから、ほのぼのとした内容を期待して読み始めたのだけれど、最初のイメージとは大分違った。

なんというか、とても硬派な感じ。

でも考えてみたら作者は『不夜城』の馳星周。

その硬派な世界観と、犬という癒しの存在を掛け合わせたら、なるほど、こういう世界ができあがるのか、と納得する世界観と内容だった。

 

とにかく上手い。

骨太な小説という表現があるのかは分からないけれど、そんな感じ。

 

主人公は人のようで犬

6つの短編はそれぞれ「男と犬」「泥棒と犬」「夫婦と犬」「娼婦と犬」「老人と犬」「少年と犬」というタイトルがつけられている。

そのタイトルから分かるように、“主人公”は一作ずつ変わっていく。

でも「犬」はずっと同じ犬を指している。

 

つまりこの本は、一匹の犬を主軸とた、出会いと別れの物語になっている。

 

それぞれの主人公は物語の冒頭でその犬と出会い、いっとき一緒に暮らし始め、最後に別れを迎える。

 

本を読み進めていくうち、シェパードと和犬の合いの子という、シェパードより小柄だけれど凛とした犬の姿がしだいにくっきりと浮かび上がってきて、脳裏と心に焼き付いていく。

 

別れと死の物語

出てくる人間は、結構どんどん死んでいく。

最初、それに驚いたのだけれど、次第にこれは出会いと別れと死と生の物語なのだと分かってくる。

決してきれいごとではない、この社会のリアルが描き出されている。

そして背後に流れ続ける「3.11」の被害や喪失、心の痛み。

 

良質な作品は重層的

この本を読んで感じたのは、「良質」と感じる作品は、重層的だなということ。

 

それぞれの物語の主軸は「犬と出会い、心の変化が訪れ、でも別れが来る」というもの。

でももう一つの物語が背後に存在している。

 

それは例えば、主人公と家族との関係であったり、主人公が捨ててきた過去の重さであったり……。

 

深みを感じさせる作品を私も書きたいなと思わされた。

 

決して明るい話ではないのだけれど、それでも暗闇の中に確かな光を感じられる、心に余韻を残す良い本だった。

直木賞受賞作と本屋大賞受賞作は、やはり外れが少ないな。

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