その他 純文学

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」

2022年前半の第167回芥川賞受賞作。

芥川賞受賞作の半分くらいは、文体から読みづらかったり、特異な世界観に入っていけなかったりで、途中で挫折する💦

それに比べると、この本はとても読みやすいし、とってもリアルな現実のお話。

が、が、が……でした。

 

職場の「日常」

話の内容は簡単に言うと、大企業の一つの部署の日常。

部署の規模は15人~20人程度なのかな。

そのなかに「『頭が痛いので帰ります』とすぐに早退したり、みんなが遅くまで残業しても定時で上がり、代わりに『頑張っているみんなのために』とお菓子を作って持ってくる女性社員(芦川さん)」がいる。

その女性社員を鬱陶しく感じる同僚もいるけれど、「気が利くし、優しい」「体が弱いのだから、労わってあげないと」と褒めたり、甘やかしたりする上司やパートさんが多く、その職場の構造に、不満を持つ同僚はさらに不満を募らせていく、みたいな話。

 

で、不満分子の代表として、30歳くらいの独身男性(二谷)と、20代後半くらいの女性社員(押尾さん)2人の視点から、物語が語られていく。

2人は仕事帰りに居酒屋でお互いの気持ちを吐露しあい、一緒に芦川さんをいじめましょう、などと話し合い、もらったお菓子を食べずにゴミ箱に捨てたり、それを本人の机の上に置いたりする。

 

理解ができない

こんな職場あったら、むっちゃ嫌だなと思うけれど、まぁあるのかもしれないな、というリアルさはある。

それに、先にも書いたように、とても読みやすい文章なので、すらすらと読める。

 

でも、どんどん嫌な気持ちが蓄積していく。

視点人物が芦川さんに不満を持つふたりだからそっちの正義が語られていくのだけど、「まぁ確かに芦川さんみたいな人が職場にいたら、迷惑かもなぁ」とまでは思っても、とても共感までは至らない。

逆に、それハラスメントじゃないの? と思う。

さらに二谷は、押尾さんには芦川さんの悪口を言い、実際"視点人物”としても、”こんな甘ったるいもの、誰が食べるか”みたいな感想を述べ続けている。のに、芦川さんと普通に付き合っている。

理解ができない……。

 

一見分かりやすそうに見せて、やっぱり「特異な世界過ぎて入りこめない」芥川賞作だったのかもしれない💦

 

作者は何を書きたかったのだろう?

Amazonのレビューを見たら、「こういう職場を忘れたくて小説を読むのに」みたいなコメントがあって、思わず笑った。確かに!

私のように、そういう「職場」の鬱陶しい人間関係を卒業した位置にいる人間でも、なぜ好んでこんな世界を味わわなくてはいけないのだろう、という気持ちになった。

 

でも、一つの作品を書くということには、かなりの時間とエネルギーがいる。

それを掛けたということは、作者には何らかの「これを書かなくては」という想いがあったのだろう……きっと。

とりあえず、それが何なのか知りたいな、と思った。

 

芦川さんのような人に自分の領域を侵されているように感じている人を応援したかったのだろうか。

(だとしたら、最後は全然救われないけど)

 

でも、本来文学というものは、答えの出ない問いを人に投げかけ、もやもやさせ、考えさせるものだ、というなら、まぁ、そうなのかもしれない。

  

ということで、「楽しい読書」を求めている人には勧めない作品。

タイトルはなんかほのぼのしていて、表紙の感じも瀬尾まい子さんの小説みたいなものが読めるのではないかという期待を抱かせるのだけれど、どちらかというと、中身(味わう感覚)は、”いやミス”の湊かなえだから、と言っておきたい(笑)

(※湊かなえはミステリー作家だから、最後にオチがあって、気持ち悪いなりに落ち着くけれど、これは落ちもないので、残るもやもやが半端ない)

 

色々考えるきっかけになった

でも、「物書き」としては、「この作品、すごいいい!」という作品より、「うん????」という作品に、刺激を受けることは多い。

実際この作品を読んで私は、「私が作品を書くうえで譲れないことって何かな」ということを改めて考えさせられた。

 

それは簡単なところでは、「最後にはちょっとした光を見せたい」とか「人の悪意はできるだけ書きたくない」とかそういうことで、さらに本質に迫ると「自分の美を作り出したい」ということ。

  

あと、この小説の前は本屋大賞を受賞した『同志少女よ敵を撃て』という過去のロシアの戦争を描いた小説を読んでいたのだけれど、これは精神的にきつくなって半分で止まっている💦(村を壊滅させられ、一人生き残った少女が訓練を受け、狙撃兵となり戦場で人を殺していく話で、上手いし、ものすごく色々調べているんだなと感嘆しつつも、純粋に心がしんどくて)。

自分の精神衛生を良好に保つためには、精神的に疲れる小説は2冊に1冊とか3冊に1冊くらいのペースにしなくては、と思う日々だった💦

 

大きな賞を受賞した作品のなかにも、もちろん素敵な読書体験を提供してくれるものもあるけれど、賞というのは「心地よい読書体験」「楽しい読書体験」を保証してくれるものではないなということを改めて思った。

むしろ文学賞は、「問題提起」するやや尖った作品に与えられることが多いのだろう。

 

ということで、しばらくは以前読んで「この人の描く世界好きだなぁ」と思った人の本を読んで、ゆるゆる暮らしたいと思う(笑)

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