東野さんの作品は、外れがないし、作品数も多いし、ということで、しばしば読んでしまう。
「さまよう刃」は以前から気になっていたのだけれど、何度も手にとっては、本屋の棚に戻していたため、「これ、読んだっけ、読んでないんだっけ」と分からなくなり、しばらく放ってあった。
ただこれも映画化されたということで、気になったので買ってみた。
読んでいなかったようで、良かった(笑)
娘の敵討ち
これは、かわいい高校生の愛娘を強姦されて殺された父親が、未成年の犯人ひとりを自らの手で殺し、もうひとりの犯人をも殺すべく、逃走しつつ犯人を捜すという話。
犯人を追う父親の気持ちが非常によく分かり、痛いけれど、でも、良い作品だった。
東野さんのこういう作品は、一ミリでもずれたら完成しない工芸作品のような感じだと思う。
逃走している父親がホテルではなくペンションに泊まるという設定と、最後のちょっとしたひねりには少し不満も覚えたけれど、それ以外は本当に完璧に組み立てられている。
警察がなかなかたどり着けないなか、なぜ父親が、犯人が誰でどこに住んでいるのかをつきとめられたのか。
この部分こそが要で、この設定を作り出したところが、まず、すごいな、と思った。
あとは、この、ちょっとうんざりするような世界を、緻密に書き出していく集中力と、努力と、筆力には、本当に敬意を払いたくなる。
さまよう刃 (角川文庫)
角川グループパブリッシング 2008-05-24 |