吉田修一

吉田修一「悪人」

久しぶりに吉田修一を読んだ。

吉田さんは、上手く純文学とエンターテイメントを融合させている作家のひとりだと思う。

正直、芥川賞受賞作の「パーク・ライフ」を読んだときは、もう二度とこの人の本は読まないだろうな、と思ったけれど、他の本は、結構、エンターテイメントの要素もあり、おもしろく読める。特に「パレード」は、傑作。

この「悪人」は、来年映画化されるようで、文庫本が平積みされていたので、気になって買ってしまった。

大佛次郎賞、毎日出版文化賞をW受賞しているらしい。

純文学的でもあり、ミステリーでもある

これも非常に、純文学的にも読めるし、ミステリーにも読める作品だった。

始めに、女性が殺される。そして、犯人は誰か、ということが、色々な人や、色々な時間軸からの視点で綴られる文章によって、少しずつ分かってくる。

前半は、非常にミステリーの要素が強い。だから、先が気になって、どんどん読んでいける。

ただ、後半は、犯人の「逃避行」の物語になる。

 

吉田さんはやはりもともと純文学の作家だけあって、非常に描写力がある。

町の様子を描くのにも、普通の作家とは違う感性を使っているように思える。

だから、福岡・佐賀・長崎という場所と、それをつなぐ道とトンネルが、非常に鮮明に(行ったこともないのに)目の前に浮かぶ。

 

そういう描写力によって、物語は決してありきたりの陳腐な作品にはならないけれど、でも、正直私は、前半と後半の世界の変化にちょっとついていけず、バランスの悪さを感じてしまった。

 

本当のテーマは何だろう?

買った文庫本には「映画化」という帯が巻かれ、「あの人に出会うまで、こんなに誰かを愛する力が自分にあるなんて思わなかった」という言葉が書かれている。

確かに後半のテーマはこういうことなのだろうけれど、はじめから本当にそれがテーマだったのだろうか、という疑問が残るというか......。

 

でもこれは、あくまで「映画」のテーマであって、小説のテーマではないということでいいのかな。

多分、吉田さんが一番描きたかったのは、人の多面性じゃないかな、という気がする。

相手によって、人はどんな人間にもなる、と。

 

アマゾンなどでは評価が高いようなので、私に読みきれていない部分があったのかもしれない。

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