川上弘美のイメージは「蛇を踏む」だったので、そのあらすじだけ聞き、作品を読む前からちょっと敬遠してしまっていた。
でも、最近ネット上で知り合った人が川上弘美をとても好きみたいで、その話を聞いていて、興味を持った。
で、読んだ結論としては、「良かった!」これからもっとこの人の作品を読みたいと思わせる味があった。
内容は結構重たく、未来のない関係が多いのだけれど、それをさらりと書いてしまうその文体が上手い。
文庫本のあとがきには、川上さんの書きたいのは、「別れを予感している二人の関係」なのではないかというようなことが書かれていて、確かにこの中の十二編のほとんどが「別れ」の運命を感じさせる、ちょっと切ない感じなのだけれど、それが痛いような切なさではなくて、もっと流れるような切なさなのがいい(痛いような切なさも好きだけど)。
川上さん自身の年齢もあるのだろうけれど、登場人物がほとんどみんな40代だから出てくる雰囲気なのかもしれない。40代も悪くないなと思えるような作品たちだった。
特に、先の見えない不倫ものが上手いなぁ。「冬一日」とか「冷たいのが好き」などは、なんだかちょっとしたことが伝わってきてしまう。すべてを諦めているようでいて、諦められていない、そんな曖昧さが人間らしくていいなと思える。
あと、「どうにもこうにも」など、なぜか幽霊が出てきて普通に接してしまうようなのもおもしろい。
こういう文体だと、それに全く違和感を覚えないからすごい。上手い人って、何を書いても上手いんだなぁ……。きっとこういう人は、大して悩まずに、すらすらとこういうことを書けてしまうのだろうなぁと思った。
他の作品を読んでみたいと思うと同時に、一度川上さん本人にも会ってみたいなと感じた。何を話したいのかはよく分からないけれど(笑)