薬学博士の池谷さんが中高生にした「脳」の話を本にまとめたもの。
池谷さん自身は、アルツハイマー病などの研究を最先端で行っている人で、以前糸井重里さんと「海馬」という本を出していた。
私はばりばり文系人間なので、「中高生」とは言っても、「慶應義塾大学ニューヨーク学院」の中高生に話したというこの本の内容は正直ちょっと難しかった。
でも8割方は分かったかな。
いつも小説ばっかり読んでいるから、こういう本は疲れるけれど、脳が活性化されました!という感じ(笑)
目からうろこだったり、なんとなく知ってはいたけれど分かっていなかったことが鮮明になったりもした。
読んでみて絶対損はないと思う。
小説ばっかり読んでいて飽きたなとか、日常の生活に疲れてどこかまったく違う世界に行きたいなぁという人にはいいかも。科学にもともと関わっている人以外は、こういう理系の本を読むと、多分、異世界に行ける(笑)
Contents
体が脳を決めている
この本の中には色々おもしろいことが書いてあって、全部はとても抜き出せないけれど、印象深かったことをふたつ。
まず一つめは、「体が脳を決めている」という考え方。
人間よりいるかの方が遙かに容量的には優れた脳を持っているのだけれど、人間の脳の方が発達しているのは、人間の体には細かい作業をできる指があったり、身体的に優れているからだという論に驚いた。
最近、30を過ぎたせいか、以前よりとても自分の体というものを意識するようになった。以前は体というのは心や脳の入れ物にしか思っていなかったけれど、それは明らかに間違っていたな、と。
ただまぁ、この本で言っているのは「体を動かした方が頭が良くなる」という論ではないので、そこは注意。ただ種としての人間の脳と体の話であって、個体差については言っていない。
あいまいな記憶こそがそうぞう(想像・創造)力になる
あとは「あいまいな記憶こそがそうぞう(想像・創造)力になる」との言葉。
人間はコンピュータみたいに正確な記憶はできないけれど、もし記憶が正確すぎたら、たとえば正面から撮った写真を見せられ、そのあとその写真の人の横顔を見ても、同一人物とは認識できない……などの不都合があるという話。
一枚の写真をはっきりと正確な像として一つの場所にしまっておくのではなく、人間は様々なところに分散してしまっておくらしい。そして記憶を伝える神経(だったかな?)の働きは少し怠惰で、毎回信号を送るわけではなく、気まぐれにしか動かない。だから、一度見たものをすぐに記憶することは難しい、ということらしい。
そして、脳はあいまいなところ、欠けているところを補う性質に優れていて、そこから想像力が生まれてくる……みたいな話だった。
と……私の記憶力も随分あいまいだ(笑)
人の体はもう進化しない
そういう「なるほどぉ」とうなるようなことがいくつも書かれていておもしろい。
題名は「進化しすぎた」と少しネガティブだけれど、池谷さんの話自体はネガティブじゃない。
人間は脳の機能を10パーセントくらいしか使いこなせていないけれど、それは環境が変わり変化しなくてはいけないときのための「余裕」として残してあるというような言い方だった。
ただ人は周りの環境を自分に合うように「進化」させているから、人間の体はもう「進化」しないだろうというようなことも書かれていた。これは私も時々感じること。
ただ私はそれをマイナスのこととして捉えていたけれど、池谷さんは、周りを変えていくというのも、新しい「進化」の形と肯定しているようにも受け取れた。