東野さんの名前はもちろんずっと前から知っていたけれど、ちゃんと読むのは初めてだった。
いやぁ、この人も職人的なエンタメ作家だなぁ、と思った。感覚ではなく、頭脳で書いている感じがする。
どうしたら人の心をひっぱって最後まで読ませるか、その「技術」をとてもよく分かっている人だ、というのが感想。
私は実はあまり本にのめりこまないタイプなのだけれど、久しぶりに睡眠時間を削ってラスト、読み切った、という感じだった。
上手いなぁ。先が気になる!
Contents
エンタメとして完璧
ラスト八分の一くらいでようやく「も、もしかしたら......」という予感を抱き始め、ラストの十分の一で、その予感が本当だったということと、なぜそうしたのか、細かい部分はどうやってクリアしていったのか、それぞれの事柄にはどんな意味があったのかが分かってくる。
私はそこまでミステリーに詳しくはないので、これが本当に新しいものなのかは分からないけれど、少なくとも私の中では新しく、とても衝撃的だった。
なるほど、すごい!と思った。「気づかなかったよ」だけではなく、「なるほど」としっかり納得させるのは、ミステリーでは特に大事だと思う。
と、もう、エンタメの点では完璧に近い評価!
文学・芸術・表現
ただ、「文学」という面から見ると、どうなのだろう。それはよく分からない。
最近小説を習っている先生が言うには、「一気に読めました、というのは褒め言葉のようであって、決して褒め言葉ではない」とのこと。
そんな一気に読めるようなものは、心に残らないし、ストーリーのおもしろさだけで先を読ませているのだから、もう一度手にとって読んでみようとは思わないから、というのが理由。
東野さんの作品は、たとえばシドニーシェルダンのような本と比べたら(中学か高校の頃は結構はまって夜遅くまで読んでいたなぁ)、結構しっかりした作品だと思う。でも、もう一度読みたいか、いつでも自分の本棚に入れておきたいか、と言われると、う~ん、となってしまう。
読み直したくなるのは、決して読みやすくはない三島由紀夫とか、分かったようで全部が分かったわけではない小川洋子さんの作品とか、そういうものの方。
そういうわかりにくい「純文学」は、エンタメに比べてお金にならないとは思うけれど、やっぱり私は「職人」に徹して文章を書くことはできないだろうな......。これから考え方は変わるかもしれないけれど、今はそう思う。
別にエンタメの要素を完全に排除するとかそんな極端なことではなくてね。
テーマは謎? 愛?
この作品も、トリックというか、謎の答えはとてもよく考えられたすごいものだった。
でも、これは帯にも書いてあるけれど、人はこれほどまでに人を深く愛せるのかというのがテーマになっている。
でもその愛は、この話では脇役になってしまっていないか、主役がそのトリックの奇抜さになってしまっているのではないか、という気はした。
なんとなくラストの物語の決着の付け方が、こういうのもありだなと思う一方で、少し受け入れられなかったというのもあり......。
全然比べるものではないけれど、たとえば一年後、この本と「ミュンヘン」とどちらが心に残っているかと聞かれたら、「ミュンヘン」の方が心に残っているのではないかと思う。
.そういうところで、自分はまだ、作品を書く上で何を一番重要視したいのかが分かっていないのかもしれない。だから迷うのかもしれない。......なんてことを思った。
と、いつものごとく脱線しまくったけれど......
この本は、本当におもしろいし、良くできた本だと思います。お勧めです!
容疑者Xの献身 (文春文庫)
文藝春秋 2008-08-05 |