アカデミー賞の主要三部門受賞ということで、ついつい見に行ってしまった。
どちらかというと「ブロークバック・マウンテン」の方に惹かれていたのだけれど、まだ渋谷の一館でしかやっていないみたいなので、数週間待ってみます。
Contents
バランス感覚がいい
感想は、なかなかバランス感覚に優れているなぁ、という一言かな。
重いテーマを扱っているのに、見終わった感じも爽やかだし、かといってすべてを無理矢理ハッピーエンドにしてしまわないリアルさが残り、拍手!だった。
テーマは人種差別についてで、アメリカ社会で、黒人やアジアの様々な人が白人から迫害を受け、つらい思いをしているというような内容(その一方で、黒人は白人に復讐をくわだたてり、もっと弱い人種を痛めつけようとしたりするのだけれど)。それを複数の人物の視点から描いている。
一言で黒人といっても、そのために社会からドロップアウトしてしまったような人もいれば、白人と対等にキャリアを築いている人もいる。外国人を差別する白人がいると思えば、もっと広い心で接する白人もいる。
初めはちょっと差別の描き方が、やりすぎでは……とも感じたけれど、それは日本に住む日本人だから思うことかもしれない。それがやりすぎかどうかはアメリカに住まないと多分分からない。
ラストがいい
それ以外では、誰に肩入れしすぎることもなく、ただ人種にかかわらずみんないいところも悪いところもある「人間」なのだという視点がしっかりとあり、好感が持てた。
重いテーマなのに、暗くなりすぎない描き方は上手いなぁと思ったし、やはりラストが私は良かったと思う。
様々な視点人物すべてがいっぺんにハッピーになってしまったら、それはいかにも作り物なのだけれど、良いことも起これば悪いことも起こる。状況が変わらない人もいる。
それをしっかり見せながら、それでも見る人を爽やかで救われた感じに持って行けるというのは才能だ。
才能と言うより、バランス感覚、センス、という感じかもしれないけれど。
初めは良い:1 悪い:9 くらいだったものが、ラストは良い 5.5 悪い 4.5くらいの比率になり、それで救われた感じがする。でも、問題はまだ残っている。
本当、この終わらせ方は勉強になった気がする。
結局日本の安易なエンタメみたいなまとめかたをしちゃうと、すがすがしさは残るけれど、「あぁ、おもしろかったね」で、心になにも残らなくなってしまう。
でも逆に「ミュンヘン」みたいにすると(よほど強烈なインパクトはあったらしい……最近しばしば「ミュンヘン」と色々な作品の読後感?を比べてしまう(笑))、テーマは心に刻まれるけれど、気分が暗くなりすぎる。……そのバランスが大切だとこの頃、けっこう考える。
安易に救うこと
BBSには書いたのだけれど、最近、地方の賞の最終で落ちた。
でもそのときの選考委員の藤沢周さんの言葉が良かった。
最終候補に残った作品はいずれも文章が達者であったが、人生の内実に筆致が迫り始めるというとき、簡単に登場人物を救って、物語をまとめる傾向が散見された。これでは現実をナメているといわれてもいわても仕方ない。そして、小説をナメているとも。まずは残酷なほどクールに自己を見つめるという視線が必要であると思う。またそれこそがリアルというもの謂いである。
うわぁ、分かる!って気がした。
最近の私のテーマは、この「ラストのバランス」。
そういう意味では、とても勉強になる映画でした。
……という個人的なことを置いておいても、やはりアカデミー賞とるだけあるな、という作品だった。
ただ残念だったのは、あまりにもバランスが上手くできすぎていて、やはりインパクトにはちょっと欠けたかな、というあたりかな。
でもアメリカ社会も大変だなぁ。ああいう状況でだったら、人を疑って生きるしかないような気がする。最近の日本もちょっとずつそうなっていてそれは悲しい。
新聞におじいさんが投稿していた。子供が落とし物をしたから声をかけたら逃げられた、と。
人を疑えと子供に教育しないといけない社会って、本当に悲しいと思う。
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