リリー・フランキー

「東京タワー」リリー・フランキー

予想以上に良かった。素晴らしい!

この本がベストセラーになるなら、日本の出版業界はまだまだ大丈夫だという気がする。

 

文句なく良い

一言でいうと愛があふれていた。だから最後の方は、うるうるどころじゃなく、号泣した。途中までは電車の中などで読んでいたけれど、さすがに最後の方は家にこもって読んだ。

 

これはただのリリーさんの母親の思い出ではなくて、こんなふうに生きた人がいるという確かな記録だと思った。

大変なことはたくさんあっただろうし、リリーさんが、「子供の目から見ても小さな人生に見えた」と書いているように、すごいことを達成した人生ではなかったかもしれない。

でも、子供のことだけ考えて生き、多くの人に慕われたというその人生は十分に語る価値のある、幸せなものだったのではないか、という気がした。

ということで、文句なく良いものに対してそんなに多く語る言葉はない。ただ、まだ読んでいなかったら読んでみてください、というだけ。

 

「一生に一作書ける名作」と文章力

ただこの作品はやっぱりノンフィクションだから心に迫るのであって、これもきっと「誰でも人生に一作は名作を書くことができる」というその一冊ではあるのだろう、という気がする。

こういうレベルの作品を何作も書くなんてできることじゃない。

 

でも、内容=ソフト、文章の技術=ハードと2つのものから作品ができていると考えたとき、そのソフトは一生に一つというものだろうけれど、その良さが生きたのは、それまでに磨いてきたこの文章の力があったからこそだろうという気がした。

さらりと読めるけれど、この文章のうまさはかなりすごいと思う。

大部分はふざけたことをしているふざけた人間についておもしろおかしく書いているのだけれど、それがちゃんと読んでいてもおもしろいし、ところどころにはさまる洞察や描写はしっかりと心に刻まれる、存在感のある文章になっている。

上手い文章って、決してまじめくさって文学的表現をちりばめたものではなくて、こういう文章のことだろうなという気がした。

 

私はまだ「人生に一作は」の一作になりそうな経験を持っていない気がする。

でも、作家がすべきことは、その「人生の一作」の鉱脈を捕まえたとき、それを最高の力で書ききれるように、それまで力を養っていくことなのかもしれない、と今回、思った。

 

書いてくれた人にありがとう

とにかくリリーさん、ありがとう。こんな作品を読ませてくれて、ありがとう。という気持ちだった。

 

この本の中で、お母さんが入院したときに本を読んでいる場面がある。

病気と治療の痛みと闘っているお母さんを支えた本は、柳美里の「命」とあいだみつおの本だった、と。

(あいだみつおは分かるけれど、柳美里は読んで元気になるのだ......とちょっとびっくり。でも、そういう状況の人にはそうなのかもしれない)

その場面でリリーさんが書いている。自分にはそんなふうに今、母親を元気にできる本は書けていない。でも、そういう本を書いてくれた人に、ありがとうと言いたい、と。

ものを書く人間にとって、そういう気持ちは大切なものなのだろうなと思い、印象に残った。

東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~

 

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