森絵都さんの文章はうまい。
児童文学というジャンルから飛び出して、直木賞作家になっただけあるな、と思う。
Contents
透明な切なさと美しさ
「つきのふね」はまだ児童文学作家だったころの、「児童文学」にカテゴライズされる作品だけれど、大人が読んでも胸にぐっとくる......むしろ大人が読んだほうが、心に迫ってくるものを感じられる作品になっている気がする。
主人公は中学生の女の子。主な登場人物はその友人2人と二十代前半の男性の4人、ということで、中学生を中心とした物語。
でも、子供じみた感じはない。ただ代わりに、大人が忘れてしまったような、非常にピュアで透明な、だからこそ痛みを感じやすい心が描き出されていて、切ない。
つきのふねというファンタジーと夜の街の描写
簡単に言えば、4人の「友情」の話。「つきのふね」というタイトルは、生きづらさを抱えた二十代前半の男性が設計する「人類を救うための船」からきている。ノアの方舟みたいなものか。
その「つきのふね」のちょっと現実離れしたイメージと、実際に中学生たちが不安な心を抱えてさまよう夜の街の描写がきれいに重なり、ひとつの世界を浮かび上がらせている。美しい。
ストーリーもさることながら、ちょっとした表現、言葉の使い方もいい。
切ないけれど、あたたかさもたくさん詰まっていて、最後はぐっとくる。
あぁ、また森さんの本を読みたいな、と思えた一冊だった。
つきのふね 森 絵都
講談社 1998-06-24 |