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ドラマの原作
椎名桔平が主演しているドラマの原作。
ドラマは見損なってしまったので、本の方を手に取ってみる。
ドラマの番宣で、椎名桔平が演じているのが、30代後半なのにまだ新人の刑事で、変わった経歴の持ち主だということまでは知っていたけれど、本を読むと、その刑事(夏目)の人となりや生き方が全編を通して、非常に活かされているのが分かる。
人の温かさや可能性も感じられるミステリー
本は7つの短編で構成されている。
てっきり夏目の視点で書かれているのだと思っていたが、どの短編も夏目以外の人物の視点で描かれている。それがまた、夏目自体を効果的に描写するのにも役立っていて、非常にうまい構成だと感じた。
刑事が出てくる小説だから、基本的には1編で1つの殺人事件が起こる。殺人ともなれば、やはり憎しみやマイナスの感情が関わってくるもので、当然この7作にも誰かしらの憎しみや、怒りの感情が表れる。
でも、夏目の目を通し、解決されていくそれぞれの事件には、憎しみ以外の、慈しみとか愛情とか、もっと温かい人間の感情も存在していて、救われる。
人の死なないほのぼのミステリーを書くのも難しいと思うけれど、殺人事件というものをしっかり扱いながら、どこかに人を信じたくなる温かい要素を取り入れた作品を書くのは、もっと難しいだろう。
そういう意味で、作者の薬丸さんは力のある作家だなと思った。いくつか長編でも有名なものがあるようなので、今度は長編も読んでみたいと思う。