大島さんの本、3冊目。
今回は「チョコリエッタ」「水の繭」と比べ、もっと軽やかで明るく、爽やかで良かった。なんとなく全体的に分かりやすくまとまっていて、すんなり入ってくる感じ。
前回読んだ2作は、後半部分「え? え? これでいいの?」という感じがしたのだけれど、今回は安心して読めた。
香港のアジアらしい活気とか、人と人との密な関わりとか伝わってきたし、あぁこういう人間関係のなかにいるって幸せかもしれないなと、素直に思えたり。
やっぱり人はハッピーな話を必要としているのだろうな。
Contents
はっとする洞察
正直大島さんの作品は、ちょっと「ばななもどき」という感じで、ばななさんっぽいのだけれど、ばななさんの作品にはある、独特のパワーがあと一歩足りない......という感じを受けてしまう。
ただ、やはりところどころ、はっとする「洞察」がある。感性とか観察力とか描写力ではなく、洞察。
今回いいなと思ったのは、父親と二人で向き合って改めて話すことになったシーンの言葉とか、あと、日本人は親切なことをするにも相手の心を考えすぎて上手く行動できなくなってしまうことが多いけれど、香港の人はとにかく思いついたらそれを口にしたり行動してしまうと話しているところ。優しいがために臆病になってしまっている主人公の心とか伝わってきて良かった。
巻き込まれて動くタイプの主人公
大島さんの書く小説の主人公は、繊細で内向的な人が多いから、なかなか自分からは行動を起こせない。でも周りのエネルギーのある人にまきこまれているうちに、少しずつ物語も動き、主人公の心も動く......というパターンが多いと思う。
「チェコリエッタ」ではその役割をする映画サークルの先輩の存在がどうも受け入れられず、作品全体も「?」になってしまったけれど、今回は香港の人たちがたくさん出てきて、そのパワーは漠然とだけれど分かって、読んでいる私もそこに上手くとりこまれた、という感じ。
私も小説を書いていて、「主人公が動かなすぎる」とよく言われるけれど、こうやって主人公を無理矢理であっても動かしてしまうパワーを書いたり、もっと行動する主人公を設定してもいいかもなぁ。などとちょっと勉強になった。
この本は、ちょっぴり疲れているときに軽く読むには最適の本、とだけ紹介しておきます!
香港の甘い豆腐
理論社 2004-10 |