ドラマ化もされている作品。
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あらすじ
簡単にまとめると、産まれて間もない子供を虐待して殺した罪に問われた女性の裁判員裁判の話。
その裁判の補充裁判員になった3歳の娘を持つ女性が、被告の女性と自分を重ね合わせていく……というストーリー。
角田さんの作品は、じわじわくる
すごく怖いとか、すごく残虐だとか、そんなことはないし、物語は淡々と進む。
ただ、じわじわと世界が歪んでいって、自分の足場が脅かされるような感覚を読者に感じさせるのが、角田さんはうまいなぁと思う。
私が角田さんの作品で好きなのは『八日目の蝉』(不倫相手の娘を誘拐した女性が、まだ赤ん坊のその娘と一緒に逃げる逃避行物語。そのあいだに子供は成長し、本来誘拐犯である女性を母親として純粋に信じて育つ)と『紙の月』(若い愛人に貢ぐために、勤めている銀行で多額の横領を働く女性の物語)なのだけれど、両方とも、「分かるようで分からない」「分からないようで分かる」微妙な設定と、感情描写!
この『坂の途中の家』で言うと、「赤ちゃんを虐待して殺した」というニュースを聞いたとき、子育てを経験した多くの女性は「可哀そう」と思い、「信じられない」と口にはするけれど、「でも……自分も殺していたかも」という微かな記憶を持っている……と思う。
だから、「自分が被告の立場にいてもおかしくないな」と思う、というまでは、多分、誰でも思いつくストーリーだろう。
でも、角田さんの小説は、そんな一筋縄ではいかない。
もっと、夫のこと、義母のことなど含め、自分を取り巻く世界全部を、被告の女性とどんどん重ねていき、自分の見ている世界の不確かさに段々気づいていく。
それは、めまいのような感覚。
つまり、角田さんらしい小説。だけど……
そういう「自分の立っている世界って確かなものなのだろうか」という感覚に読む人を陥れるという意味では、いい意味で角田さんらしい小説。
ただ、新聞に連載された作品のせいか、私は個人的に、やや中だるみを感じてしまった。他の角田さんの作品には感じない、やや冗長な感じ。
特に最初の裁判のシーンは、同じようなコメントが繰り返されているように思った。
でも、中盤からは話が進み始め、内容が内容だけに、読むのはややしんどくもあったけれど、それでも主人公の未来が気になって、読み進めてしまった。
そういう、先に導く力って、やっぱりメジャーな作家の人はすごいよなぁ、と改めて思う。
本当、内容は結構重いので、現実にはあまり重たい悩みがない、逆に平和ボケしそうだから、刺激が欲しいという人にお薦めの作品かな。
※ちなみにドラマは見ていないのだけれど、ドラマは「群像劇」になっていて、3歳の娘を持つ女性だけにスポットライトが当たった内容ではないよう。その分、「ドラマチック」なのかな? 多分、小説の方がドラマより、一層重たいんじゃないかと思われる。
角田光代
「坂の途中の家」