直木賞と本屋大賞のW受賞を果たした『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ短編集。
あくまで「スピンオフ」。続編ではない。……ということが分かっていたら、買わなかったかも(私の予備知識不足)。
『蜜蜂と遠雷』自体も評価が分かれているようだけれど、私はかなり好きな作品だった。 詳しくはこちら → 恩田陸『蜜蜂と遠雷』
だから期待して読み始めたのだけれど、一言でいうと、軽かった。
ま、スピンオフだから当然と言われれば、そうなのかもしれないけど。
『蜜蜂と遠雷』を読んで、その世界と登場人物に惚れこみ、「この世界をもっと味わいたい!」という人にはお薦めする。
でも、私のように『蜜蜂と遠雷』を読み終わってしばらく経ち、登場人物の名前も忘れてしまったくらいで読むと、「あれ、これ誰だっけ?」と思っているうちに、話が終わる(^^;)
『蜜蜂と遠雷』から一カ月以上空けちゃいけない(笑)
一作一作が短い。
『蜜蜂と遠雷』の余韻がない状態で読むと、世界の雰囲気をつかみかけたところで、終わってしまう。それが残念だった。
ひとつ心に残った作品
ただそんななかで一つ心に残ったのは、「袈裟と鞦韆」という作品。
この本は6つの短編集からなっていて、それぞれ主人公が違うのだけれど、 「袈裟と鞦韆」 は菱沼忠明という人が主人公になって物語が進む。
コンテスタントやその師などは、「誰だったっけ……?」とは思っても、「あぁ、いたよね」という印象は残っている。でも、菱沼って??? となる。
でも、読んでいくと最後に分かる。あぁ、そのつながりなのか、と。
その「あぁ、そこにつながるのか」というのも良かったけれど、でもこの作品が良かったのは多分、主人公の像や『蜜蜂と遠雷』で描かれたストーリーに作者が頼らなかったからだろう。
他の作品は、『蜜蜂と遠雷』があってこその、「おまけ」だったけれど、この 「袈裟と鞦韆」 だけは、一つのしっかりとした独立した作品だった。
ま、「スピンオフ」だという位置づけをよく分からずに読み始めた私がいけないんだろうけど……でも、もうちょっと力というか、想いのこもった作品が読みたかったな、とは正直、思った。
恩田陸
『祝祭と予感』