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「名人がAIに負けた日 〜人間VS将棋ソフト〜」

NHKで放送されている「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」。

昨日の朝たまたま触りをみて引きこまれ、録画してしまった。

昨日のテーマは、「名人がAIに負けた日 〜人間VS将棋ソフト〜」。

https://www.nhk.jp/p/anotherstories/ts/VWRZ1WWNYP/episode/te/Q6R16K8J6X/

AIが将棋の名人まで破るほどまでの強さになった、という話なのだけれど、それが「AIに初めて負けたプロ棋士」「プロ棋士を任せたAIを作った開発者」「AIに負けた名人」「敢えて人からでなく、AI(将棋ソフト)から学ぶことを選んだ新しい世代の棋士」の4人の視点から語られていく。

 

AIは感情を持っているのか?

この番組を全部見て、面白いなと感じたことは3つ。

一つ目は、感情や思考をもたないはずのAIが勝手に育って行っているように感じるストーリー。

 

AIに敗北した佐藤名人が言っていた。

「人間同士なら、“その手はないんじゃない?”“そうですよね”みたいな心の会話ができているところ、AIだと通じない。

でも、相手に感情はないことは分かりながらも、“それはないんじゃない?”と思わず言いたくなる。そうすると相手も“大丈夫です。これは明確なデビデンスに基づいた一手ですから”と応えてくるように感じた。

対戦しているうち、中になにかはいっているんじゃないの? という気分になってきた

というような言葉。

 

そして開発者はもっと迷いなく言い切る。

「ポナンザ(AI)のなかにも、最善の最初の一手はある。でも、ポナンザは、一手目に何を選ぼうが、いくらでも巻き返せる。最初の一手に何を出しても、大して問題にはならないと言う」

こちらも一字一句正確に抜き出したものではないのだけれど、明らかに開発者はポナンザの意志を聞き取ったような発言をしていた。それも、当たり前のことのように。

 

このAIは元々、過去のプロ棋士たちの対戦の記録を読み込んで、そのデータから最善の一手を繰り出すように作られたものらしい。

でも、最初は過去のデータをなぞるように手を選んでいたAIだけれど、その後、自ら学習し「人間が考えつかないような、新しい手を打つように育っていった」という。

その結果、プロ棋士たちは「そんな攻め方、見たことがない」と動揺し、そして負けて行った、と。

 

このあたり、面白い。

ただ、創り出されたものが、作り手の域を超えてくることはよくあること。

芸術作品はまさにそうだと思うけれど、機械に同じことが起こってもおかしくはない。

「AIの成長」……面白い。

 

佐藤名人がすごい!

この番組の中で2番目に面白かったのが、佐藤名人の姿勢。

佐藤名人もAIに負けるのだけれど、失礼ながら「プロ棋士で初めてAIに負けた人」として登場した5段の人とは姿勢が違った。

姿勢というのは、将棋に対する姿勢であり、勝負に対する姿勢であり、人生に対する姿勢。

私は全然将棋のことは分からないけれど、どんなジャンルでも頭角を現す人って、突出した「才能」があるというより、生きる姿勢が違うから、それが能力の差になっていくんだな、ということを、まざまざと見せつけられた気がした。

 

「負けてしまったらどうしよう」「そうしたらきっと将棋ファンから叩かれる」と恐れていた5段は、実際にミスをして負け、自身のブログに心無い批判の言葉をたくさん書かれたという。

それに少し不快感を覚えるのは、きっと自分がその5段の立場だったら、同じように考え、同じ結果を招くだろうと思うからだろう。

 

名人の姿勢はまるで違う。

名人は「負けたらどうしよう」とは思わない。「勝っても負けても、将棋ファンを裏切らない勝負をする」と腹をくくる。

それはきっと、名人は勝敗によって自分の価値に傷がつくことはないと分かっているから。

その自信。

そして勝ち負けにだけこだわらないから、人間なら普通打たない手を売ってくる相手の手に、恐れだけでなく、興味も抱く。

その姿勢が、格好良くて、しびれた。

だから結果として負けても、「最後までよくやった」という賞賛の声が将棋ファンからは挙がる。

 

この佐藤名人の姿勢には、非常に学ぶところが大きいと思った。

世の中、「才能」の違いは否定できない。でも、才能を発揮できるかどうかは、自分自身の意識にかかっている、そう最近とても思う。

自分が持っている才能は、ものすごい才能を持った人の50%くらいでしかないかもしれない。でも、与えられた50%を100%出しきれれば、80%の才能を持っているのに、それを半分しか発揮させられない人にも敵うのだ。

 

AIは戦う相手なのか?

そして面白いというか、興味深く感じた3つ目は、「VS AI」と、とかくAIは敵にされるな、ということ。

 

でもAIも人間が、人間の生活を向上させるために作り出そうとしたはずのもの。

この番組でも最後の方、AI(将棋ソフト)を活用して経験を積むことで、頭角を現してきた若い棋士が登場する。

そして、藤井翔太さんの「AIと戦う時代を超え、AIと共存する時代に」という言葉も終盤で紹介される。

 

昔から、意志を持ち始めたロボットに人間が征服され始め、ロボットと戦いが始まるような映画などあるけれど、いまだにロボットやAIに自分の領域を侵略されるような恐れを抱く人はいるだろう。

でも、人間が作ったものなら、共存できないほうがおかしいのでは、とも思う。

(原爆などとは共存できないから、必ずしも上の一文は正確ではないけれど)

 

最後は「長丁場になって最後にミスをする、そんなことがあるから人間対人間の戦いは面白い」とか、結局、人間らしさがあるから将棋は面白いんだという感じで番組は締められる。

確かに、優秀なロボットだけが出場し人間を負かしていくオリンピックとかあっても、面白くない。

頭脳を使うものは「人間の聖域」と思うから、きっとややこしくなるのだろう。

 

まるで意志や感情があるかのように成長していくAI。

その進歩を恐怖ではなく、希望として見られたらいい。

 

余談

将棋は全然分からないんだけど、将棋をテーマにした漫画『三月のライオン』はすごくいい!

『ハチミツとクローバー』で有名な羽海野チカさんの現在進行形の作品。

天才棋士と、自分は天才ではないと自覚したうえであがく二番手、三番手の棋士たちのドラマが好き。

1年に1巻くらいしか出なくて、待ち遠しすぎます~。

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