町田そのこさんの最新刊。
以前から上手かったけれど、最新刊はさらに研ぎ澄まされているなと感じた。
とても緻密に作りこまれている。
久しぶりに、「すごいなぁ」と感じたあと、「それに比べて、私は……」と落ち込んだ💦
いい小説に出会えると嬉しいのだけれど、ときどき凹む。ややこしい😂
Contents
5章からなる長編小説
この本は5章に分かれているけれど、「連作短編」ではなく「長編」。
宙という最初は小学生だった女の子の成長の物語であり、宙をとりまく家族や友人の成長の物語でもある。
この小説を一言で表すと「密度が濃い」
びっくりするくらい、色々なことが起こる。
小説ってこんなに色々なことが起こるものだったっけ? と思うくらい。
(「人間ドラマ」カテゴリーの小説のなかでは、という話だけど)
でも、だからといって描写がおざなりになっているわけでもないし、読みながら不思議な感じがした。
でも、描写もちゃんとされていて、シーンもちゃんと心に残るから、実際に「出来事が多い」わけではないのかもしれない。
結構、「え? そこでそんなこと起こる?」みたいなショックなことが、さらりと書かれているから、印象に残るということなのかも。
途中ちょっと、あまりに悲しいことが色々起こって、「え、これ、必要?」「ここまでいる?」みたいに思ったりしたのだけれど、でも最後に、「あぁ、なるほど、ここに繋げるためには、全部必要だったね」と分かる。
そういう巧さが、この小説にはあった。
そして、実際の人生も「振り返ってみると、無駄なことなど何もなかったと気づく」みたいに良く言うけれど、そうなのかもなぁ、など、そんなことも思った。
時間が経てば人も変わる
「宙ごはん」は、キャラクターの配置も巧いと思う。
ただ、普通の小説や漫画だと、キャラクターの性格ってそう変わらないけれど、この作品では結構簡単に変わる。
実際に変わったり、主人公の成長に合わせて「本当はこうだったのだ」と変わったりもする。
そこにちょっとついていけない気もしたり、でも本来人間って、これくらい変わるものかもと思ったり……
色々、実際の「人生」について考えさせられたという意味でも、良い小説だった。
宙を助けてくれる、佐伯の存在がとにかくいい。
「宙ごはん」の概要
色々なことが起こるし、設定も色々複雑で、「こうだと思っていたけれど、本当はこうだった」と後からひっくり返ったりもするから、ネタバレにならないように解説するのは難しい。
でも一言でいうと、
家庭の事情で愛すことも愛されることも知らずに育ってしまった女性が子供を産み、育てられない状況になり、代わりに妹が育てることになる。
その「妹」のところで楽しく育ったのが、宙。
でも「妹」夫婦が海外赴任になったのをきっかけに、宙は元の親に返されることになる。
たまに会う分には、綺麗で面白いお姉さんみたいだった本当の母親は、一緒に住むと、家事は一切せず、自分の部屋にほぼ引きこもり仕事ばかりしている“母親失格”の人間だと分かる。
授業参観にも来ないし、年の離れた恋人が第一優先で、子どものことにはほとんど関心がないように見える。
そのことに、小学生の宙は傷つく日々を送る。
でもそんな日々の救いが、母親が食事作りを頼んでいる「佐伯」。
佐伯は母の後輩で、母を一途に思い続けるがずっと片思いという人。
家が飲食店を営んでいて、佐伯は料理が非常にうまい。
宙は佐伯の作る食事に救われ、佐伯に食事の作り方を習い、少しずつ自分でも美味しい料理を作れるようになっていく。
そのあたりは、ほっこりする。
「宙ごはん」は5章とも、章タイトルは料理の名前になっている。
傷ついた人が、誰かの想いのこもった食事で少し救われ、一歩前に進めるようになる、という話の積み重ね。
救われた人が、次は救う側になろうとちょっとずつ成長していく物語でもある。
一つ一つの「心が傷つく体験」の話が重たくて、だから「密度」を感じてしまったのかもしれないけれど、でも重いからこそ、救いの大きさもまた大きい。
途中、あまりに無情な展開に、「それはちょっと」と思う部分もあったけれど、でもやっぱりいい話だった。
町田そのこさんは、やっぱり上手いなぁ。また読もうと思う。
町田そのこ
『宙ごはん』