映画(さ行)

北野武 「座頭市」

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 水曜日のレディースデイで1000円で見てきたけれど、「これを1000円で見てしまっては悪いような気がする」と思えるほど、よく作りこまれた作品だった。
 
 北野武という人は、すごく頭がいいから、こういう作品もひらめきで作れてしまうのかもしれないが、凡人である私が見る限りでは、「全ての場面に神経がはりめぐらされているなぁ」と感じる。
 
 シーン一つ一つ、シーンの編集の一つ一つ、シーンをつなぎあわせる順番一つ一つ、すべてがきちんと計算されている。無駄はないし、冗長もない。この作品は、好き嫌いは関係なく、表現というものに関わっている人間は是非見るべきだと思う。こういう「完璧」に作り込まれた作品を見ると、表現には妥協はあってはならない、と痛感するから。それを感じない人は、武を超えるほど努力している人か、表現をあなどっている人か、どちらかだと思う。

 私は武の作品の昔からのファンではなく、「HANA-BI」と「Dolls」とこれしか見ていないから、分かったようなことは言えないし、言う気もない。「カンヌ」とマスコミの力に踊らされている一観客にすぎない。でも、少なくともこの三作品は好きだし、次回作もできたらまた見に行きたいなと思う(ただやくざっぽい作品にはあまりひかれない)。
 
 今回の作品は、最後のどんでん返し(?)みたいな、ストーリーの急展開は、ちょっと好きではなかった。見た人にしか分からないだろうけれど、最後の方で「おうめ」が、「(残りの敵が)分からないなら分からないでもういいじゃないか」というような台詞を言う。その少しあきらめだけれど、悟りの雰囲気で締めて欲しかった。

 ただ、完全な勧善懲悪の物語、そして無敵の強者……そういうのはできすぎている感じがするし、「水戸黄門」などを見たいとは思わないのだけれど、この作品で見せられると、その価値観のようなものが、日本の伝統なのだなと感じさせられた。

 それから今回の作品は、血の吹き出すシーンが多く、そういうのが苦手な私には少し辛かったが、でもその血の広がる様子を武は美しいと思い見せているというのは分かったし、他の場面にも美しさを感じた。激情にかられて人を殺しても美しくなどないけれど、愛する人の生活を守るため、自らの感情を捨て、剣を握り、人を殺す……それは少し美しい。表面的には冷めた表情をして、冷酷なことをしているのに、それを裏打ちする、奥深いところの確かな感情というものが感じられるからだろう。浅野忠信はやはり上手い! 武も上手い!

 完全に自分の好みにしっくりきたというわけではないのだけれど、評価せずにはいられない何かがあった。

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