七年前の「すばる文学賞」受賞作。
五年前から「すばる」の受賞作を読むようにしているので、最近のものはほとんど読んでいるのだけれど、新しいのを読みつつ、たまには遡って。
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デビュー後生き残れる作家
どこの文学賞でも同じだと思うけれど、受賞したからといって、そのまま文壇に残れるかというとそうではない。生き残っていかれる(つまり、2作目、3作目を本にできる)人は3人に1人もいない計算ではないかと思われる。
そのなかで安達さんはきちんと生き残り、本を出し続けている作家だ。
普段は受賞してすぐに作品を読むので、その一作を読んでみて長く生き残りそうか、芥川賞の候補になりそうかなどと予測しながら読むのがちょっと楽しかったりする。
大抵私の読みは当たる。「なんでこんなのが......」と思うと、その作家は大抵一作で終わる。
何を偉そうなこと言っているんだという感じだけれどね(笑)
でも、とりあえず良い作品を見抜く目はあるということだから、あとは自分の作品を冷静な目で見られるようになりさえすればいいということなわけで。多分。
と、話はずれまくっているけれど、この作品は、「今もきちんと活躍している作家の受賞作」という知識がなくても、「この作家はいいところまでいく」と思っただろうな、という確かな手応えのある「受賞作」だった。
女性に恋愛感情を抱きながら、男とセックスする女の話
簡単にまとめてしまうとこれは、女性に恋愛感情を抱きながらも、男とセックスをする女性の話。ただその男とも恋愛感情ではない、もっと深い「同士感覚」みたいなもので結ばれているのだけれど。
多分作品の半分近くは性的なシーンに割かれている。セックスの描写のある小説はいまどき珍しくもないけれど、ここまでしつこく描かれているのはちょっと珍しい気がした。
ただ初めはその性的な表現や欲望のストレートな表現がいいだけなのでは、と思っていたし、主人公の女性にどうも共感できなかったのだけれど、次第に彼女の気持ちが少しずつ分かるようになっていった。
そして、その「説得力」に触れたとき、上手いなぁと素直に思った。
彼女が「家族」というものを否定しながらも、家を売る仕事を続けていること、幸せな家族を持つ同級生に初めは批判的な感情を持ちながらも、次第に心を通わせていくこと、彼女と体の関係のある男が、チンパンジーやジャングルに惹かれていること、彼女の好きな女の子が美術に興味を持っていること......すべてが段々と「必然的」なことに思えてきた。
主人公も少しずつ自分の心を真っ直ぐに見つめ、社会から批判されないための鎧を少しずつ外して素直になっていく。そして多分、一歩幸せに前進する。
彼女たちなりのハッピーエンド
初めは現実や家族や愛というものにとても批判的な、暗い作品だと思ったけれど、それがしっかりと明るい方へ向き始める。一般的なハッピーエンドではなくても、彼女たちなりの形での。
私は彼女たちとはまったく違う世界に生きているのに、それでもなぜか応援したいような、ほっとしたような気持ちになった。
そして、それってすごいことだなぁと感じた。上手い!
個人的に好みかどうかと聞かれると、ものすごく好きというわけではないけれど、嫌いではない。そして、この人の技術をもっと学びたいという意味で、他の作品を読みたくなった。
深みがあり、なおかつ人の心を温かくできるような作品を書きたいな、私も。
あなたがほしい (集英社文庫)
集英社 2001-09 |