その他 純文学

江國香織「東京タワー」

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 恋って切ないなぁ。
 という気持ちでいっぱいになった。

「恋はすものじゃなく、おちるものだ。
 透はそれを、詩史に教わった。いったんおちたが最後、浮上は困難だということも」

 一文目は書けても、「おちたが最後、浮上は困難……」の下りはなかなか書けない。
 でも、この部分が、恋の痛さを端的に表現している。

 以前、「楽しくなければ恋じゃないよ」と人に言われたことがあった。
 私が、苦しい恋ばかり選んでしているように見えたからだろう。
 確かにこの台詞も、もっともだと思う。

 でも、痛みのないものもまた、恋ではないような気がする。

 今、あの人は何をしているのだろう……会えない時間に思う切ない痛みが、恋心をまたかきたてていく。

 江國さんの小説はときどきよく分からなくて、途中で挫折したりしてしまうのだけれど、基本的にはやはり「上手いなぁ」と思う。

 どこかで「こんな恋愛なんてあるんだろうか?」と思う気持ちもあるのだけれど、「こんな恋があったら素敵かもしれないなぁ」という希望を上手く女に抱かせる。そういう才能がある。

 今回のこの作品も、四十代の既婚女性と大学生の男の子の恋愛の話。

 一般常識としては、そんな恋は一時上手くいったからって、若い男の方が「おばさん」を捨てるのよ、という感じだけれど、二人の男の子を視点人物に置いて、その二人の「恋心」を切なく描き出すことで、「理想的な恋愛」としてその恋を描くことに成功している。

 ドロドロさせたり、悲壮な感じにするのは簡単なのに、ぎりぎりのところできちんとお洒落にまとめている。嘘っぽすぎることもないし、リアルすぎることもない。
 生活のにおいのない、「東京タワー」と「東京タワーが見える家」というアイテムの使い方も秀逸。

 年下には欠片も興味のない私でも、「まだ私にもチャンスがあるのかしら」と気づいたら思っていた。いやぁ~、江國さん、さすがです(笑)

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