映画の予告を見たくらいの情報しかもっていなかったので、周りから疎まれている変わった性格の人が、コミカルに描かれている作品なのだと思っていたが、読んでみたら、全然違った。
一人の女性の一生にまっすぐ、まじめに向き合って書かれた、結構重たい話だった。
でも、シリアスなのに重くなりすぎず、どんどん先にひっぱっていく力は、さすがとしか言いようがない。
久しぶりに、すごくいい本を読んだな、という満足感を得られた。
Contents
松子に感情移入してしまう
タイトルこそ「嫌われ松子」だけれど、読んでいると、「松子」に感情移入してしまう。
本当に「ついていない」としか言いようがない人生なのだけれど、それでも、いっときいっとき真剣に生きている松子を、つい応援する気持ちになっていた。
文庫のあとがきでは、松子だけが悪いわけではないけれど、もっと松子が未来のビジョンをしっかり持って生きていれば、こんな結末にはならなかっただろう。
でも、誰にでも、こういう転落がありうるということだ、というようなことが書かれていたけれど、作者が伝えたかったテーマは、そんなことじゃないんじゃないかな......と、私は思った。
決して「成功」ではなかった人生だけれど、それでも、そのときそのとき一生懸命に生きて、誰かの心に何か残せばいいんじゃないか、と、私は読んだ。
共感させる力と物語を引っ張っていく力
この、「共感させる力」と、「物語を引っ張っていく力」には、すごく学ぶものがある気がした。
この作品自体はそう「ミステリー」という感じではないけれど、作者が推理小説でデビューしたということを知り、深く納得。
大学卒業くらいから時系列にそって進む松子の視点でのストーリーと、なぜ松子が殺されたのか、松子が死んだと知ったところから辿っていく「甥」の視点でのストーリーの絡ませ方が、本当に上手い。
こういう、視点や時間の流れを計算して、組み込めるようにならないといけないな、と思う。
山田さんのほかの作品も読んでみたい。
嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫) 山田 宗樹
幻冬舎 2004-08 |