知り合いに薦めてもらい、初めて沼田まほかるさんの本を読んでみた。
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コアなファンがつきそうな作風
ホラー大賞でデビューした人らしい。ホラーは苦手なのもあり、今まで全然知らなかったが、調べたら、去年は本屋大賞にノミネートもされていた。大衆受けしそうな作風ではないけれど、一部のコアなファンがつきそうな作家だな、と思った。
今回読んだ「痺れる」は、9つの短編からなる作品集。
どれも独特の世界観で描かれている。非常に「文学的」な作品だと感じた。
個人的には、9つの作品のうち、5作品くらいを心地よく読め、特に「ヤモリ」「沼毛虫」の2つを気に入った。ただ、2,3作品は、気持ち悪いだけで、ちょっとなぁ......というものもあった。それだけ、異なったテイストのものを描けるということなのだろうか。
いかにもホラーっぽい題材を、ホラーのまま描いたものもあれば、緻密に描き出された日常の風景にホラーの要素が混ざっているものもあり、また、文体からして普通の感性を持った人を撥ねつけているようなものもあった。
芸術作品
一言でいうと、「芸術家の書いた小説」という感じの本だった。
ストーリーの不気味さに、ちょっとした細部の描写の不気味さがうまく合っているところに才能を感じた。
たとえば「ヤモリ」では、初めに家でよく見るヤモリの描写があるのだけれど、ヤモリの目の奥に感じた闇が、あとで井戸の中の闇に重なっていく。この絶妙な伏線は、芸術だ。
沼田さんは、ヤモリだとかナメクジだとか沼毛虫だとか......そういう"小道具"の使い方が非常にうまい。
最初数作品読んだときは、ちょっと小川洋子さんの初期のころの作品と重なった。
私は大学時代、好きな作家は小川洋子さんと答えていたのだけれど、小川さんの初期の作品も、美しさと残酷さを併せ持つ"芸術作品"だった(小川さんの初期の作品は日本ではなく、フランスで映画化されているというのも、納得できる)。
ただ小川さんが好んで描くのは研究室や病室だったのだけれど、沼田さんはそれが「庭」や「虫」になっている。多分、こういう隠しきれない心の深い部分での偏愛みたいなものには、作家の深層心理が表れているのだろうな。
経歴もすごい
それにしても、沼田さんの「主婦、僧侶、会社経営などを経て、2004年に『九月が永遠に続けば』で、第5回ホラーサスペンス大賞を受賞し、デビュー」という経歴はなんなのだろう。
僧侶? そして僧侶のあとに会社経営?
経歴も、奇妙だ(笑)
決して万人受けはしない作品だと思うけれど、ちょっと変わった読書体験をしてみたい人にはお薦めかな。
私自身にとっては、半年か1年に1冊くらいのペースで読みたくなるだろうな、と思える世界でした。結構刺激になりました。
お薦め、ありがとう!
痺れる 沼田 まほかる
光文社 2010-04-20 |