美術

「ピーター・ドイグ展」感想

竹橋にある東京都近代美術館に久しぶりに行ってきた。

東京都現代美術館で行われている「ときに川は橋になる(オフラファー・エリアソン展)」のチケットを見せると100円引きになるとサイトには書いてあったし、両方とも東京都が運営する美術館で、「現代」「近代」とすみ分けているのだろうけれど、ピーター・ドイグの作品はかなり「現代美術」な感じだった(ドイグさんはまだ生きているし)。

※常設展を見たら、明治時代から時系列に美術史が見られるので、そう言う意味ではやはり「近代」担当なのだろう。現代美術館の常設展は、もっとずっと尖っている。

 

現代で「絵画」にこだわる

美術鑑賞は好きなのだけれど、私はそこまで詳しい美術の知識を持っているわけではなく、かなり偏った鑑賞をしている。

ドイグさんのことも知らなかった。

ただこの「ピーター・ドイグ展」の紹介で、「インスタレーションなど新しい表現が主流になってきた1990年代に“絵画”の可能性にこだわり、活動を続けているアーティスト」というような文章を読み、興味を持った。

 

美しさと思想のバランス

ドイグさんの初期の作品は美しい。この記事のアイキャッチに使っている画像は、「ピーター・ドイグ展」の広告に使われているものだけれど、カラフルな石が埋め込まれた塀と、全体を取り囲む青の美しさに目が向く。

会場は基本的に制作年代順に並べられていて、最初の部屋には「美しい」と純粋に観賞を楽しめる絵画が多い。

しかし、それぞれの絵画には、解説を読むと、様々な作者の思惑が隠されていることが分かる。

最初の部屋は、ただ「綺麗だなぁ」と眺めたあと、解説を読むと、面白い。

 

綺麗さと、ちょっとした不気味さが共存している微妙なバランスが初期の作品には多く、個人的にはそのあたりが好みだった。

この絵も「天の川」というタイトルで、一見すると美しい星空が湖面(川面? 海面?)に移りこむ風景に見える。

でもよく見ると、地上に生えている植物がそのまま水面に映っているわけではないことに気づく。むしろ鏡像の方が鮮やかで、凛としていて、存在感がある。

そんな「あれ?」という体験と、心に残る、ややざらっとした感覚。

とても興味深かった。

 

またドイグさんは映画「13日の金曜日」に強く影響を受けているということで、初期の頃から、ストレートに不気味な絵もある。

この隣には、ボートから緑色の人(?)がぬぼぉっと半身出して横たわっているような絵もあって、怖かった。

※私の写真の撮り方が悪く、写真が傾いているのがまた、奇妙な歪みに感じられる(^^;) 実際はちゃんとした長方形のキャンバスです。

 

「絵画」はただの平面ではない

それから、こんな絵。

奥の建物は明らかに、コルビュジェの作品。

でも、そんなに存在感があるカラフルな建物が、木々に覆われている。

この絵の主役はどっちなのだ?と思う。

そこに書かれていたこの解説。
(改行・空行は私が勝手に入れました)

 画面の手前に描かれた暗色の樹木とその幹に施された白いハイライトが、建物を捉えようとする視線を遮っています。

 これにより画面手前にあたかももう一つの層、すなわちスクリーンが存在するかのようです。

 このスクリーンはイメージの投影される場、すなわち見る者にとってはイメージが出現する面であると同時に、その奥に描かれたイメージと見る者とのあいだに距離を作り出す間仕切りのようにも機能します。

 近さと遠さ、絵の具の物質性と描かれたイメージという矛盾する感覚を同時に喚起させるこの仕掛けによって、見る者の焦点は絵画の表面とイリュージョンとしての絵画空間とのあいだを行ったり来たりするように促されます。

 すなわち彼は樹木と建物を描いているのではなく、樹木越しに建物を見通すという感覚を、さらに言えば、見るという行為そのものを、絵の具の素材性を生かして表しているのです。

「 樹木越しに建物を見通すという行為」を作り出す装置としての絵。

平面での表現に限界を感じ、立体や映像に行くのではなく、あくまで平面でできることを模索したドイグさんの姿勢に、しびれた。

 

またこんな絵もある。

これは中段と下段だけなら理解できるけれど、一番上の層の意味がよく分からない。

ただこれは、ニューマン(抽象画家)の画面を三分割して面を塗る手法に影響を受け、抽象を具象に戻したような意味があるらしい。

 

単純に「美しい」というだけではなかなか評価されない世界でのあがきなのかもしれないけれど、初期の頃の作品は、果敢に挑んでいく姿勢と、作品世界がよい塩梅にバランスし、見ていて心地よかった。

 

ただ個人的には、最近の絵はちょっと苦手だった。

もちろん、ドイグさんに会ったことはないし、どんな人なのかも知らないけれど、絵を見ると、「挑戦」にやや飽きてきていない?と、感じた。

まったくもって、個人的な感想。

 

意外と、これまで避けてきた空間芸術や映像などに手を広げたら、面白いものを作ってくれそうだな、なんて思ったり。

そんな勝手な空想ができるのも、一人静かに過ごせる美術館という空間ならではの楽しみ。

 

展覧会情報

2020年2月26日~6月14日だったところ、コロナの閉館が重なり、「10月11日まで」会期延長。

サイトを見ると、ぴあで日時指定券を買うように勧められているけれど、「当日、空きがあれば入れます」というような書き方。

予約せずに行ってみたら、当日券売り場の窓口は暇そうで、すぐに券を買って入れた。なかも混雑なし。

(ただ、解説文が長いので、立ち止まる人が多く、読みたい解説文の前に人がいるときは、ソーシャルディスタンスを考えて、離れて待ったりはしたけれど、ストレスはその程度。密な感じは全然ない)

写真撮影は自由で、「SNSでシェアして!」と推奨されている感じ。

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