山田宗樹

山田宗樹「嫌われ松子の一生」

映画の予告を見たくらいの情報しかもっていなかったので、周りから疎まれている変わった性格の人が、コミカルに描かれている作品なのだと思っていたが、読んでみたら、全然違った。

一人の女性の一生にまっすぐ、まじめに向き合って書かれた、結構重たい話だった。

 

でも、シリアスなのに重くなりすぎず、どんどん先にひっぱっていく力は、さすがとしか言いようがない。

久しぶりに、すごくいい本を読んだな、という満足感を得られた。

 

松子に感情移入してしまう

タイトルこそ「嫌われ松子」だけれど、読んでいると、「松子」に感情移入してしまう。

本当に「ついていない」としか言いようがない人生なのだけれど、それでも、いっときいっとき真剣に生きている松子を、つい応援する気持ちになっていた。

 

文庫のあとがきでは、松子だけが悪いわけではないけれど、もっと松子が未来のビジョンをしっかり持って生きていれば、こんな結末にはならなかっただろう。

でも、誰にでも、こういう転落がありうるということだ、というようなことが書かれていたけれど、作者が伝えたかったテーマは、そんなことじゃないんじゃないかな......と、私は思った。

 

決して「成功」ではなかった人生だけれど、それでも、そのときそのとき一生懸命に生きて、誰かの心に何か残せばいいんじゃないか、と、私は読んだ。

 

共感させる力と物語を引っ張っていく力

この、「共感させる力」と、「物語を引っ張っていく力」には、すごく学ぶものがある気がした。

この作品自体はそう「ミステリー」という感じではないけれど、作者が推理小説でデビューしたということを知り、深く納得。

 

大学卒業くらいから時系列にそって進む松子の視点でのストーリーと、なぜ松子が殺されたのか、松子が死んだと知ったところから辿っていく「甥」の視点でのストーリーの絡ませ方が、本当に上手い。

こういう、視点や時間の流れを計算して、組み込めるようにならないといけないな、と思う。

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嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)
山田 宗樹

 

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