純文とエンタメの境がなくなって来ているといわれて久しい。
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純文の人、エンタメの人
でもやっぱり、純文学系の雑誌とエンタメ系の雑誌というのがあって、それぞれの雑誌の主催する賞を獲り、デビューすると、その時点で「この人は純文の人」「この人はエンタメの人」と、なんとなく線引きがされる。
実際、文芸の出版業界に詳しい人の話を聞くと、純文学の作家のコミュニティ、エンタメ作家のコミュニティというのがなんとなくあって、そのあいだの交流はあまり盛んではないという。
つまり、デビューする前から、自分がどっちのスタンスで長くやっていきたいのか、考えて動くことが大切だということだろう。
デビュー雑誌に左右される
最近、このサイトに、以前のブログから記事を移しているのだけれど、今日は 「野ブタ。をプロデュース」の感想が出てきた。
これをどのジャンルに入れるか、ちょっと考え、結果として「純文学」に入れた。
これはテレビドラマ化もされているし、分かりやすいエンターテイメントでもあると思うけれど、原作は主人公の内省的な部分も多かったし、なにより、これが「文藝賞」の受賞作だったから。
純文学は点、エンタメは線に重きがある
でも、境界のなくなってきた純文学とエンターテイメント小説、内容では、どうやって分けるの?
ということは、私も以前からずっと考えていること。
色々な人に聞いても、「今は境はなくなってきているから気にしないほうがいい」という意見が多いし、「違いはここにある」とずばりと答えてくれる人は今のところ見つかっていないのだけれど、あくまで私の考えでは......
純文学は「点」に重点があるもの。
エンターテイメントは「線」に重点があるもの。
だと思う。
「線」というのは分かりやすくいうと、ストーリー。
「次はどうなるんだ?」「犯人は誰なんだ?」「どうしてこの人は殺されてしまったんだ?」という謎を追いかけるようにして、ぐんぐん先へとひっぱっていくものがエンターテイメント。
それに対して、ある状況での主人公の気持ちであるとか、あるシーンの美しさだとか、「点」としてとらえられるものを大切にし、ひとつの箇所だけ切り取り、そこだけ読んでも価値がちゃんとある、というものが「純文学」なんじゃないか、と。
例外もある
もちろん、例外もあると思う。
以前、小説の書き方を教わっていた純文学系の先生は、「純文学だからって、ストーリーがいい加減でいいわけではない。逆に、エンターテイメントだから描写がいい加減でいいわけではない」と言っていたけれど、そのとおりだろう。
でも、私が思うに、やっぱりほとんどの純文学は「点:8割 線:2割」、エンターテイメントは「点:2割 線:8割」くらいの比率でどちらかに重きをおいているように思う。
ただ、本当に良い作品は、この偏りが少ないかもしれない。
たとえば、乃南アサさんの「風紋」などは、乃南さんが「ミステリー作家」だから、作品は「エンターテイメント」ということになってしまうのだけれど、非常に主人公の気持ちの描写が緻密で、素晴らしい「文学作品」だと思う。
「これからどうなるの?」という疑問で、読者を先にひっぱっていく力もあるのだけれど、主人公の気持ちを描き出すために、「線」のほうを犠牲にしているところも多い気がする。
シーンが書きたい
私自身は、ずっと 「すばる文学賞」受賞→「芥川賞」受賞 を目指してきた、「純文学作家」の卵なので、「線」よりも「点」を書きたいと思ってしまう。
私の場合、書き出すとき、テーマが先に浮かぶときもあるけれど、「シーン」が浮かぶときも多い。テーマがはじめに浮かんでも、次に考えるのはストーリーよりも、「シーン」。
「こういう場面が書きたい」ということなしに、作品は書けない。
そういう「点」重視の書き方だから、ずっと純文学を目指していた。
でも、純文学の賞はなかなか獲れないし、受賞作を読んでも、おもしろいと感じられないし、自分が読むのはもっぱらミステリーという状況が続き、「やっぱりエンターテイメントが書けないと」と、数年前から考えるようになった。
そして、今は、「広義のミステリー」に方針を転換している。
あんまり殺人事件とかは書きたくないので、あくまで「広義のミステリー」だけれど。
点が6割 線が4割くらいを目指す
でも、これは、実は書くものを変えたということではなく、今までと同じ、自分の書きたいものに、「線」の要素を増やした、というだけ。
「ミステリー」というカテゴリーに分類されると、それだけで、心理描写や風景描写が多くても、「エンターテイメント」というジャンルになる。
分かりづらい「純文学」と「エンターテイメント」の境で悩むより、あくまで「点」を大切にし、それを核にしながら、「ミステリー」という衣装を着て、化粧をするのもありかな、と思う。
ジャンルとしては「エンターテイメント」に分類されるけれど、「点が6割、線が4割」くらいの作品を書いていけたら、と思う。