小川洋子 エッセイ

小川洋子 「妖精が舞い下りる夜」

エッセイ集。

デビュー~初の長編連載頃

12年ぐらい前に出たもので、このエッセイを書いているときの小川さんはちょうど今の私と同じぐらいの年齢ということになる。

小川さんは26才でデビューして、28才で芥川賞を獲っているのだけれど、デビュー→芥川賞受賞→初の長編を連載という出来事と、それと平行してあった、妊娠→出産→子育てという経験を、飾らないありのままの感覚で書いている本で、とても良かった。

小説家としてデビューするというのはこういうことなのかとか、子供を育てながら小説を書くというのはこんな感じなんだ(かなり大変そう……)とか、色々なことが具体的にイメージすることができた。

小川さんはこれ以降、あまりエッセイらしいエッセイを書いていないと思うけれど、各年代ごとに書いてくれていたら、小説家として母として書き続けていくというのがどういうことなのか、伝わってきてもっと良かったのになぁ、と思う。

 

人柄のあたたかさを感じる

小川さんの小説は、決して幸せいっぱいのものではなく、透き通った痛みをともなうものがほとんどだ。でも、小川さん自身は、とてもあたたかい感じの人なのだろうと思っていたけれど、このエッセイを読むと、想像通りで嬉しい。

このエッセイの中で一番いいなと思ったのは、初めの方にある「スコーピオンの思い出」の章。芥川賞を獲って、知り合いの編集者に祝ってもらうという内容。

以下、抜粋。

何気ない一瞬、単純な場面が、心に深くしみ込んでくることがある。……そういう人間の感情の無垢な一点に触れると、また小説が書きたくなる。……
私の小説は不気味で意地悪なものが多いけれど、原点は案外単純なところにある

温かくていいなと思った。

 

私の周りには小説家になるために小説を書いているのではないかという人もいる。

でも、ただ一人の人間として精一杯日常を生き、そこから自然に生まれるものを小説という形に残し、それが誰かに伝われば、それはそれで嬉しい……というくらいのスタンスで生き、書いていかれたら幸せかもしれないとこの頃思う。

-小川洋子, エッセイ
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