小川洋子

小川洋子 「偶然の祝福」

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小川さんの作品は「中編」くらいが一番好きかも。「短編」は短すぎる気がする。

 でも、この短編集は良かった。小川さんにしてはちょっと心温まる作品が集まっていて。

 特にこれは主人公が「小説家」だし、「え? 本当の話?」という設定で書かれていて、おもしろい。

 もちろんこの中の多くはフィクションなのだろうけれど、こういう様々な偶然とか出会いによって、小説家は支えられ、書き続けていかれるものなのかもしれないと感じられるのが良かった。犬や息子に対する愛情も感じられた。

 全部で七作あるのだけれど、一番好きなのは「キリコさんの失敗」。

 こういうふうに自分の書いたものを認めてくれる人が身近に一人でもいるということが、書き続けていくには大きな支えになるのだという温かさを感じられたから。ちょっと変わった人だけれど、こんな人がいたらいいなと思える。万年筆が戻ってきたのも、「書き続けなさい」というメッセージだったのだろうな。

 あと、「時計工場」の世界も良かった。小川さんの作品は、現実を描いている振りをしながら、いつのまにか、一歩踏み外して、異世界に入り込んでしまうようなものが多いのだけれど、その典型みたいな感じがした。小川さんにとって小説を書くと言うことは、精密機械の時計を作るような作業なのかと考えると感慨深かった。

 この作品集は、小川さんらしいけれど、そんなにハードでコアな世界ではなく、初心者にもおすすめかも。こういう優しい部分が、のちに「博士の愛した数式」みたいなものへつながっていくのかもしれないな。

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