群像新人賞を獲った中編「シルエット」と、「植物たちの呼吸」「ヨル」の二つの掌編小説を合わせた作品集。
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世代間ギャップ
正直私には、いいのか悪いのかよく分からなかった。ただ、こういうのを好きな人もいるのだろう、ということは分かる。多分、世代の問題なのだろうな。
私は吉本ばななさんをすごいと思って、好きで読んだりするけれど、私より何十も上の人には分からないだろう。そういうような問題。
若い女の子というだけで話題になって、受賞してしまった……もしかしたらそういう感じかもしれない。彼女も、綿矢りささんも(綿矢りささんより、島本理生さんの方が上手いと思う)、以前何作か読んだ犬飼恭子さんなんかも。
ただ、この作品を読んで、「そういう新しい風も今の文学界には必要なんじゃないの?」って思えた。
吉本ばなな
たとえばよく、吉本ばななさんの作品をけなす人は、「違う世代の人や、違う性別の人間をきちんと書けていない」と言う。
確かにそうだろうと思う。登場人物は明らかにばななさんの価値観に合うように作られた人たちだから。
でも、人を正確に、奥深さを感じられるように書くという今までの文学に、彼女は確かに新しい風を吹きこんだ。
ばななさん自身はそういうことを意図していたのかは分からない。
でも、「周りの人がどこかうすっぺらい」というのは、私たちの世代には「リアリティ」だったのだと思う。だから受け入れられた。……そういうことなんじゃないかな。
そしてそういう、ばななさんみたいな人が出てきたことで、「あぁ、こういう感じなら書ける」と思えた人も現れた。
ばななさんの真似をしている人は、所詮真似をしているだけなのだけれど、「こういう文学もあるのだ」と人に思わせられるというのは、すごいことだ。
そういう意味で、島本理生さん達にも頑張ってもらいたいなと思う。
もっと明るい部分を
特に私は彼女が新聞で、「よくあるトラウマとか悲惨な事件などが書きたいのではなくて、もっと明るい部分、家族の絆などを書きたい」というようなことを言っていたのがいいと思った。
出版社は話題性を求めるから、なかなかそういうシンプルな作品を受賞させないのだけれど、人が読みたいと思うのは、多分そういうもののはず。
だから、「女子高生」という、他の部分で話題を稼げる人には、是非、そういう「普遍的なあたたかいテーマ」を書いていってもらいたい。
そういうところから、本当の文学を取り戻す道を作ってもらいたい、そんなふうに思ったりした。
※後日読んだ「ナラタージュ」で、島本理生さんへの評価は私の中ですごく変わった。→「ナラタージュ」感想