久しぶりに瀬尾さんの本を読んだ。
瀬尾さんの本は、絶対裏切らない爽やかさとあたたかさがあって、好きだ。
しんどい読書に疲れたとき、現実がハードなときなどに、“ちょっとほんわかしたものを読みたい”と思ったら、手に取って間違いない作家さん。
こういう読者の期待を裏切らず、書き続けられるってすごいな。
Contents
PMSとパニック障害のふたり
瀬尾さんの本は、最後必ずハッピーエンドになるし、途中も軽やかに進む。
でも設定自体は、意外とそんなに軽くない。
主人公は大体、客観的に見たら、けっこう大変だよね、という状況に置かれている。
そういう主人公が、ちょっと不思議な軽さのある他の登場人物に救われることもあるし、大変な状況だけれど、本人はそんなに深刻に受け止めず、さらりと受け流して強く生きているという場合がある。
この小説は、主人公がふたり。
同じ会社に働く同僚同士なのだけれど、女性の方は月経前症候群(PMS)で、普段は人一倍人に気を遣う人なのだけれど、生理前になると急にイライラして感情を抑えられなくなり、周りの人に当たり散らしてしまう、という問題を抱えている。
男性の方は、元々は非常にコミュニケーション能力が高く、友達も多く、人生に対しても積極的な明るい性格だったのに、急にパニック障害になり、できることが急にわずかになり、薬の影響で覇気もなくなり、なにをしても楽しくない、という状態に陥っている。
そんなふうにふたりとも「問題」を抱え、大企業では働けなくなり、色々と融通の利く小さな会社で働くことになり、出会う。
忙しくないし、平和だけれど、ふたり以外は年配の人ばかりで、“楽だけれど、やりがいはない”感じの職場。
というところから、物語は始まる。
え? そういう行動に出る? という意外性が楽しい
ふたりとも「問題」を抱えているし、このあとどうなるの?と思ったけれど、物語はとても瀬尾さんのワールドらしく進展していく。
パニック障害の方の「山添君」は常時の病気&薬の副作用だから、なかなか行動は起こせないのだけれど、PMSの「藤沢さん」の方は、生理前の数日以外は、どちらかというと“できる人”なので、思いつくと色々な行動を起こしていく。
その行動の仕方が、“え? そういう方向?”という意外性に満ちていて、ひとつひとつが楽しい。
物語は山添君と藤沢さん、ふたりの視点で交互に書かれているのだけれど、山添君の視点で、藤沢さんに驚かされていく。
こういう発想力というか、柔軟さというか、軽やかさというか、いいなと思う。
これが瀬尾さんの持ち味。
大変な状況にいる人へのメッセージも
私はPMSも(軽いのはあるけど)、パニック障害も経験したことはないから、当事者の気持ちは分からない。
当事者が読んだら、「そんな簡単に解決するもんじゃないよ」と思うかもしれない。
でも、この小説は安易すぎるハッピーエンドではない。
ふたりの病気が急に良くなったりはしない。
そうではなくて、「できないこともあるけれど、できることもある。できないことの代わりに探したできることの方が、最初にしたかったことより、もっと素敵だということもある」ということをずっと伝えてきている。
そのメッセージがいいなと思う。
あと、「自分を愛せなかったら、人を大切にできないと言うし」という藤沢さんの言葉に、山添君が「それ、藤沢さんの聞き間違いじゃないですか?」とあっさり返すくだりが好き。「そんなこと言ったら、人を粗末にする人だらけですよ、世のなか」と。
ポジティブシンキングとか、スピリチュアルとか一つの考えがはびこりすぎる弊害みたいなものも感じる。
色々な価値観があり、色々な生き方を選択する人がいていいね。
と、改めて思わされる本でもある。
とにかく、瀬尾さんの本はどれを手に取っても裏切らないので、お薦め!!
瀬尾まいこ「夜明けのすべて」