10年ぐらい前に書かれた本のようだけれど、なんだかとても新しい感じがする。
やはり乃南アサは偉大だ!
好きな作家は何人もいるが、文句なく「この人はうまい!」と思えるのは、乃南アサと宮本輝かな。
Contents
事件後の「日常」の話
この作品は、「もしかしたら自分のすぐ身近でも起きるかもしれない」殺人事件の、被害者の家族と加害者の家族の話。
途中、ミステリーらしい謎やどんでん返しもあるが、それはミステリーファンの読者のためのサービスであって、決して根幹ではない。
きっと作者はただ単純に、一つの、当事者ではない人にとっては一ヶ月もすれば忘れられてしまうであろう事件によって、周りの人間はどれだけふりまわされるかということを書きたかったのだと思う。
その事件が起こったという以外は、日常を切り取ったものでしかない。
ただ、事件後、人がいいにしろ悪いにしろ変わっていく。その変化は、何もない人の日常の何十倍もの早さなのだと感じられた。
人間が生きている
この作品も、さすがに「犯人」は悪いと言っているし、悪いように書かれているが、それ以外の人間はみな、悪いところもあるけれどいいところもあるように書かれている。そういう重層的な人間の描き方は学びたい。
乃南さん自身「私が書きたいのはミステリーではなく、人間です」と言っているらしいし。
あと、この作品のすごさは、その人間(=登場人物)が、ずっと頭に残ってしまうことだ。
本を読み終えたあとも、思わず「今○○は元気にやっているだろうか」なんて心配してしまって、「あぁ、フィクションなんだよ! しかも読み終えたんだよ!」なんて自分で自分につっこみ。それくらい、すごい。
(※乃南さんも同じ気持ちだったようで、『風紋』の後日談『晩鐘』がのちに発売されている)
この人の才能……欲しい!