よしもとばなな

吉本ばなな「デッド・エンドの思い出」

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 人の心の中には どれだけの宝物が 眠っているのだろうか-。
 つらくて、切なくても、 時の流れの中で 生き生きと輝いてくる 一瞬を鮮やかに描いた 5つのラブストーリー。

 外国を舞台にするようになってから、どうもばななさんの作品は好きではなくなり、自分から手に取ることはなくなった。ただ、ばななさんの初期作品を「読んでみてよ!」と軽い気持ちで勧めた友達が今はばななさんにはまり、新刊が出ると買って、貸してくれる。

 これは久しぶりに、読んで良かったと思える作品だった。「つらく切ないラブストーリーばかりです」をあとがきにあるけれど、そこにはきちんと、救いがある。帯に、「幸せってどういう感じなの?」という言葉がついているけれど、しっかり「幸せについて書こう」という姿勢が見えるから、それぞれのストーリーの前半はつらくても、幸せの予感はしっかり感じられてしまう。その、「きちんと幸せを書こう」という姿勢が、良かった。
 
 伝えたいことは、しつこいくらい書き続けないとだめだね。つらくても、これがこうだったから幸せだった、これがこうなのも幸せだ……と永遠続く感じ。でもそれによって、読んでいると癒されてしまう。

 それから、この作品を読んで思ったのは、ばななさんの特徴は良くも悪くも、「抽象性」だなと思った。一応、それぞれの話ごと、異なる過去を背負った人たちが出てくるのだけれど、それにはあまり意味はなく、人間が普遍的に思う、その思考の中身にだけ焦点が当たっているような気がする。ストーリーや設定より、一つ一つの感情を大切に描いている感じ、私は好き。

 あと、ばななさんの、独特の比喩の力はすごいね。たとえば、周りの人からはとても人気があるけれど、自分は友達としか思っていない男の人を描写するとき、「彼は公共のものだ、とはじめからかたく思い込んでいた私にとって彼はおやつとか娯楽とか温泉とか、そういうものにすぎなかった」と書く。うーん、普通、思いつかない表現。実はそれがこの作者の命なのかもしれない。

 でも、この本を手にとって、一番気に入ったのは、あとがきの一言。帯にもなっているけれど「これまで書いた作品の中で、いちばん好きです。これが書けたので小説家になってよかったと思いました」って、これ。(ここで、私は「キッチン」や「TSUGUMI」や「白河夜船」が好きだとか言っちゃいけないんだろうなぁ(笑))

 私も一作は、「これを書くために生まれてきたんだ」と言えるものを書きたい。バンドとかでも、デビュー作だけ売れてその後出てこない人を馬鹿にする風潮もあるけれど、私は、とにかく「あぁ、もう、これを書けたらいいや」と思えるものをひとつ書ければいいかも……と思う。

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