瀬尾さんは本当に才能があると思う。
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一見軽やかな奥に存在している文学的テーマ
表面的にはさらっとしていて、楽しく、すらすら読めてしまう。文章も内容も分かりやすい。
でも、「なるほど、なるほど」「へ~、そんなことがあったんだ」と、その表面的な軽やかさに騙されて読み進めていくと、不思議なところへ追い込まれている。
「え? それって普通じゃないじゃん」
読者はしばらくして気付く。
そして、悩みなどなく、軽やかに生きているような登場人物が奥に抱え持つ、深さに、唐突に出会う。
一見、軽やかに見せる文体、実は奥にがんと存在している文学らしいテーマ、そのバランスが上手い。
思いついたことをさらさら書いているように見えるけれど、実はかなり綿密に計算されて作り上げられている世界なのかもしれない。でも作者はそれも隠している。
登場人物が、自分が過去に傷や重さを背負っていることを感じさせないように、作者も物語を編む大変さを読者に感じさせない。……それが瀬尾さんのうまさだ。
重さから逃げず、でも深刻になりすぎもしない
瀬尾さんの多くの作品は「家族」がテーマになっている。
多分、瀬尾さん自身が、母子家庭かなにかに育った人なのだろうと思う。家族を求め、でも、それを得られない。
ただ普通の家族ではなくても、自分には家族らしきものがあり、それで充分幸せだと、瀬尾さんは書き続ける。
こうやって軽やかな作品を書きつつ、重みを感じさせるというのは、瀬尾さん自身が背負っているもの故なのかな。
その暗さ、重さから逃げず、かといって背負いすぎて深刻になったり、不幸自慢になったりしない、その明るさや潔さが魅力だ。
この作品では、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、それぞれに何かを抱え、一風変わった考え方を持ち、人とずれた生き方をしている。
でも、その生き方に素直に共感できるし、彼らを愛すべき人だと感じられる。
本当、上手いなと思う。
すらすらと読めるし、やさしく暖かい気持ちになれるから、瀬尾さんの本はおすすめ。
「卵の緒」も「図書館の神様」も「天国はまだ遠く」も、いいですよ!!