小説の書き方本

鈴木輝一郎「何がなんでも作家になりたい」

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 かなりおもしろい本だった。実用書、だね。ただタイトルと内容はまったく違う気がする。これは「作家になる」までの話ではなくて、「作家になってから」の話がほとんど。
 
 編集者との打ち合わせはどんな感じかとか、生活や収入の実際のところはどうなのかとか、他の本では今まで読んだことがなかった、「作家の実情」が結構よく分かる。よく「具体的に想像できないことは実現できない」というようなことを言うけれど、作家になってからの生活をイメージするには、よい本だったように思う。

 本のタイトルは作家が決めるものではなく、出版社の方で勝手に決められてしまうものだということも初めて知った(純文学系の本でもそうなのかなぁ……)。

 終わりの3分の1くらいが「小説家のなりかた」という章。「『書いている間の収入』『書く時間』『書く場所』を確保しなさい」「ただし、執筆に専従してはいけません」などという、生活に対するアドバイス(なかなか納得できる内容で、おもしろい)があったり、「持ち込みなど考えずに新人賞に応募しなさい」と、新人賞に応募しまくる「サイケリック投稿法」を紹介したり、密度が濃い。

 文章の書き方、よい小説の書き方については、この本には一切書かれていないに等しいけれど、「作家を志す人の姿勢」「作家としてやっていくために必要な姿勢」を勉強できた気がする。

 正直何度も読み返す感じの本ではないけれど、一度目を通す価値は充分にあると思う。

 以下、私の心に残ったフレーズなど。

「新人賞は、デビューへの、もっとも確実な近道です。そして、道程が長ければ、近道もまた長いのだということも忘れないでください」

「最終まで残った作品を並べて読んでみればわかる通り、一定水準をクリアした作品は、『どこにも欠点がないかわりに、何となく、勢いというか、面白さがたりなくて、どうコメントしていいか困る』といったものがよく出ます。

 こんなとき、現代小説なら『人間が書けていない」とコメントし、時代小説の場合なら、とりあえず時代考証のアラを探します」

(森村誠一さんの「書けば書くほど悪くなる」という言葉を引き、その説明として……)
「書けば書くほど、自分の作品は、出来が悪いのじゃないかと思うようになってくる。しかし、それは自分の作品が悪いのではなく、自分の目が肥えてきた証拠で、実は筆力は上がっています」

「あなたが受賞することは、他の応募者の夢と希望とチャンスを踏みつぶすことでもあります。その怨嗟を晴らす手段は、あなたが成功して、落選した人が『俺は落ちたが、あの人と競り合ったのだ』と胸を張れるようになることだけです」

 引用が長くなったけれど、ところどころ、心にしみてくる文章のある、よい「実用書」でした。

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