伊坂さんの『終末のフール』は短編集。
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あと3年で滅びる世界を描いた短編集
短編だけれど、完全に 途切れてはいず、つながってもいる。
伊坂さんらしい作品だな、と思った。
あと3年で惑星が衝突し、人類が滅びるという設定で繰り広げられる作品集。
ひねくれている私としては、重いテーマには、これくらい斜に構えた角度から作品を書いてもらいたい......かもしれない。
「鉄鋼のウール」の王者の言葉
ただ、短編のなかの一つ「鉄鋼のウール」は、すごい、ばしばし正面から伝わってきた。
その作品の舞台は、キックボクシングのジム。
あと3年で世界が 終わるというとき、今更キックボクシングをしている人など いないのではないかと主人公は思うが、キックボクシングの王者 は、その日も練習をしている。
ネタバレになってしまうけれど、その王者が以前インタビューに こたえた記事が出てきた、というその記事の内容がいい。
まだ惑星が衝突するなどということが発覚する前、もしあと少しで地球が滅びてしまうということが分かったら、どうしますか という問いに、その人は、今と同じ得意技の練習をする、と答える。
そして、「あと何年も生きられないのにですか?」とあきれたように言う相手に、こう言い返す。
「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生きかたなんですか?」
......すごく胸に響く言葉だった。
この章だけは、実際にモデルになった人がいて、その人との 出会いに刺激された書いたものらしいけれど、やっぱり、 他の章と温度が違った。
終末のフール
集英社 2006-03 |